第46話
「そうだ。今すぐは渡せないけれど、茶葉を持ち帰ればお茶を飲んでもらえますよね。きっと喜んでくれます」
そう言いながら棚からちょうどよさそうな瓶を探してきて、中に茶葉を詰める。
私が機嫌よく瓶を用意する様子を、ベアトリス様は何か言いたげに見ていた。
「あっ、それとこんなに村から離れた屋敷まで荷物を運んできてくれたロイクさんにもお礼にお茶をお渡ししてもいいかもしれません。罪人の作ったお茶なんて、受け取ってくれるかわかりませんけれど……」
そう言ったら、ベアトリス様はすぅっとこちらに近づいてきて、何度も首を縦に振った。
どちらの意味だろう。お礼に渡すことに対してか、罪人の作ったお茶なんて受け取らないという意味か。
「ベアトリス様、ロイクさんにお茶を渡したら受け取ってくれると思いますか?」
ベアトリス様は勢いよく何度もうなずいた。前者の意味だったようだ。
ベアトリス様に賛成してもらえたので、私は元気よくお茶のプレゼントを用意し始める。
リュシアン様には茶葉の瓶を、ロイク様には茶葉の瓶と淹れたお茶の瓶の二つを渡すことにした。
予定ではロイクさんは明日屋敷に来る予定なので、保冷魔法のかかった容器に入れておけば、液体のお茶でも持つだろう。
「楽しみですね、ベアトリス様。喜んでくれるでしょうか?」
ベアトリス様は真顔のままうなずいた。
リュシアン様の分とロイクさんの分の茶葉を取り分けて、残りは缶に入れて保管した。瓶には屋敷にあったリボンをもらって丁寧に巻く。
ベアトリス様は私がプレゼントを用意し終えると、やっぱり前触れもなく消えてしまった。
瓶を大事に厨房のテーブルの上に置いて、私は寝室に戻った。
***
お屋敷の長い廊下を歩きながら、幽閉期間が終わってリュシアン様にお茶を渡すところを想像した。想像するだけで自然に頬が緩む。
私はリュシアン様が大好きだし、愛しているし、あの方は本当に素敵な方だと思う。
けれどベアトリス様にも言った通り、今回の幽閉だけは少し納得がいっていない。
どうしてリュシアン様はあんなにひどいことをしたのかしら。
ご令嬢たちの言葉を信じて、私には何の確認もせずに犯人だと決めつけるなんて。お茶会で人が見ていない隙にこっそり毒を仕込むなんて、そんな軽率なことするわけないじゃないか。
私はちゃんと、前日にお城のメイドを買収して、翌日のお茶会でカップの一つに毒を塗っておくように頼んでおいたのだ。
毒入りカップがどれだかわからなくならないよう、目印用の小さな砂糖細工も渡しておいた。
メイドは言われた通りにリュシアン様に毒入りカップを渡して、目印の砂糖もしっかり渡す瞬間に紅茶と混ぜ、証拠隠滅まで完璧に行ってくれたのに。
ちゃんと調べれば、私がお茶会では毒を入れていないことがわかったはずだ。
あの日はリュシアン様のカップの近くになんて絶対に近づかないようにしていたから、ご令嬢たち全員に詳しく聞けば証言に食い違いが出たはず。
それに毒の入手経路をしっかり調べてもらえば、お茶会に参加していた別のご令嬢……あの最近リュシアン様にべたべた近づいて、私を婚約者から蹴落とそうとしていたいまいましい伯爵令嬢が闇市場で購入したという証拠が出てきたはずなのに。
わざわざ伯爵令嬢に似た外見の少女を雇って偽装工作をした意味がなくなってしまった。
こんなに準備を頑張ったのに、ずさんな証言を信じてろくに調査もせず、ほとんどリュシアン様の独断で私を裁きの家に入れるなんて、予想外だった。
リュシアン様は、私のことを嫌いになってしまったのかしら……。
考えていたら落ち込んでしまい、しょんぼりしながら廊下を歩く。いつもより倍以上も時間がかかって、やっと寝室にたどり着いた。
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