第66話
◆
最近は起き上がるのがつらい。
取り調べは乱暴なものだった。セルジュ坊ちゃんを殺そうとしてなどいないと頑なに言い張っていたら、役人に頭からバケツの水を浴びせかけられ、一晩中冷たい部屋に放置された。
使用人たちは嘘を吐いていると言ったら、髪を引っ張って床に引き倒され、何度も蹴られた。
そんなことが何度も続くうちに、体からだるさが取れなくなった。今は庭の薬草を薬にして飲めるので、体調が一時的にはましになるが、すぐに元に戻ってしまう。
けれど、薬草があってまだよかった。もし薬を作れなければ、私の体調はもっと悪化していただろう。
薬草を手に入れられるのは叔母のおかげだ。取り調べのため身柄を拘束されているとき、叔母が面会にこっそり薬草の種を持ってきてくれたのだ。
私は屋敷に連れて来られる際、それをこっそり懐に忍ばせて持ってくることができた。本当は自然に任せてゆっくり育てるほうが効き目がいいのだけれど、時間がないので魔法で成長を早めて摘んでいる。
フェリシアンにも薬草についてもっとちゃんと教えておくのだったと後悔した。あの子は私の作った薬草茶を飲まないと体を壊してしまうのに。
◆
監視係が何か自分にできることはないかと聞いて来たので、それでは息子に薬草茶を届けて欲しいと頼んだ。
監視係ははじめ私と顔を合わせるのが嫌で堪らないというように粗暴な態度だったのに、ここ数日ですっかり態度が変わっていた。彼の父親が体調を崩したと言うので薬を作って渡したら、無事よくなったということで恩を感じているらしい。
ありがたく申し出を受け入れて、私は彼に手紙と薬草茶、それから渡せないとわかりながら編んでいた帽子を渡した。監視係は滞りなくそれらをフェリシアンに渡し、返事の手紙までもらってきてくれた。
◆
監視係が配達役をしてくれるおかげで、私はフェリシアンと手紙のやり取りをできるようになった。あの子を預かってくれた親戚は親切なのだそうでほっとしている。
監視係はほかにも何かできることはないかと言うので、村で何か困っている人がいたら教えて欲しいと言った。そうして彼が集めてきた情報をもとに、私は彼らに薬や衣装から切り取ったなけなしの宝石を贈ることにした。
監視係には、村の人たちにはお世話になったのでそのお礼をしたいのだと言っておいたが、本当の理由は別にある。
私が村人に親切にしておけば、幼くして一人慣れない場所で暮らしているフェリシアンによくしてくれるのではないかという打算があったのだ。
期待通り、フェリシアンからの手紙には、村の人からお礼を言われたとか、プレゼントを持ってきてくれたとかいう言葉がたくさん書かれるようになった。
◆
王家は大丈夫なのだろうか。ルナール公爵は国王様の暗殺を企んでいた。公爵位をもらう前は第二王子であった彼は、自らが国王になることを望んでいたらしい。監視係に尋ねるとおかしなことは何も起こっていないと言われたので、諦めたのだと思いたい。
◆
監視係が今日も村人からの手紙を持ってきてくれた。薬や宝石を渡したことへの感謝や、村の人たちから見たフェリシアンの様子が書かれている。フェリシアンは元気そうなので、ひとまず安心した。
手紙の一番下には、監視係からの手紙もあった。直接話せばいいのにと思いながら中を読むと、普段の口調よりもずっと丁寧な言葉で、感謝の言葉と私の境遇に対する同情が記されている。面と向かって言葉にするのが恥ずかしかったのだろうと考えたら、なんだかおかしかった。
◆
最近は薬を飲んでも追い付かないくらいに体調が悪い。ベッドから起き上がるだけで息が上がる。それでも少し調子がよくなると、私はひたすら薬を作り、フェリシアンにあげるための編み物を編んだ。私にできることは、もうこれしかないのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます