第41話

「あの、ロイクさん……?」


「あぁ、いえ。いいと思いますよ。罪を犯した人間の亡霊にもお優しく接するその姿、慈悲深くて大変素晴らしいです」


 ロイクさんは明るい声で言う。しかし、その声にはどこかトゲが含まれているような気がした。口では褒めながらも、こちらを嘲笑っているかのような。


 少し戸惑ったが、些細な違和感を口にすることもはばかられ、私は笑ってごまかした。


 すると、急に肩のあたりが冷える。振り向くとベアトリス様がそこにいた。



「それでは、ジスレーヌ様、今日はこれで……」


「あ、ロイクさん、待ってください。今、ベアトリス様が来ました」


 あまり考えないままそう告げると、プレートの向こうで息を呑む気配がした。


「え……?」


「今私の隣にいます。プレートが気になるんでしょうか。ぺたぺた触っています」


 ベアトリス様はプレートに手を触れながら、時折首を傾げて不思議そうにしていた。


「今監視係さんと通信しているんですよ。通信機が珍しいですか? 二十年前にはこういうの、あまり普及していなかったそうですものね」


『ジスレーヌ様、今話しているのは……』


「ベアトリス様が不思議そうに見ているので説明していました」


 ロイクさんは随分と動揺しているようだった。急に幽霊がそばにいると言われ、驚いたのだろうか。それとも馬鹿なことをと呆れているのだろうか。



『……すみません。次の仕事が控えているので、もう切りますね。何かあったら遠慮なく連絡してください』


「あ、はい! 引き止めちゃってすみません。お仕事頑張ってください」


 私がそう言うと、ロイクさんは曖昧な返事をしながら通信を切った。明らかに動揺が収まっていない様子だった。


「どうしたんでしょうね、ロイクさん」


 まだプレートをぺたぺた触っているベアトリス様にそう言うと、彼女はこちらを向いてふるふると首を横に振った。私には彼女の仕草の意味がわからず、ただ首を傾げるばかりだった。


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