「それで……その……何か変わりはないか」


 リュシアン様はふいに歯切れが悪くなって言う。


「変わりとは?」


「だから、ベッドがなくて寝づらいとか、部屋が寒くて風邪を引きそうだとかそういうことだ! 侯爵家の令嬢に体を壊されては問題だからな。対応してやるかどうかは後で考えるが、不満があるなら聞いてやる」


 リュシアン様はちょっと顔を赤らめて言う。


 私はリュシアン様のお心遣いに感動してしまった。睡眠薬を盛った私を、そんな風に気遣ってくれるなんて。


「いいえ、不満はありません。リュシアン様が用意してくれたふかふかのベッドのおかげで快適に眠れてますし、お部屋の温度は常に快適です。お食事も栄養バランスの取れたものをいただいていますし」


「ふーん、そうか。まぁ、別に俺が用意したわけじゃないがな。使用人の誰かが勝手にやったんだろう」


 リュシアン様はそう言ってそっぽを向いてしまったけれど、その顔はどこか得意げだった。



「あ、でも一つ悲しいことがあって……」


 おそるおそる口を開くと、リュシアン様は固い顔で「なんだ、言ってみろ」と答える。


「幽閉期間中、リュシアン様に会えないのが悲しいです……」


 正直にそう口にすると、リュシアン様は呆れ顔をした。


「そんなことを聞いたんじゃない」


「そ、そうですよね……。すみません……」


 調子に乗り過ぎてしまったと思い、慌てて頭を下げて謝る。しかし、顔を上げて見つめたリュシアン様は明らかに機嫌が良かった。



「お前は本当に愚かな女だな。お前が馬鹿なことをしなければ、この部屋に閉じ込められることもないのに」


「うう……仰る通りです……」


「二度とやらないとよく反省しろよ。俺はそろそろ戻る」


 リュシアン様はどこか楽しげにそう言うと、扉を閉めて行ってしまった。


 私はしょんぼりとリュシアン様が出ていった扉を眺め続けた。



 結局、その後の幽閉期間は毎日リュシアン様が顔を出してくれた。会いに来てくれたのかと思って私がはしゃぐと、反省しているか見に来ているだけだと怖い顔で釘を刺されてしまったけれど。


「今日で幽閉期間も終わりだな。全く、お前に反省の色が見えないせいで毎日ここに来るはめになっていい迷惑だった」


 幽閉が終わった日、部屋にやって来たリュシアン様は呆れ顔で、けれど言葉とは裏腹にどこか嬉しそうな声で言った。


「リュシアン様、私の要望を聞いてくれてありがとうございます!」


「はぁ!? 何のことだ!? 俺は罪人の状況を確認しに来ていただけだ!!」


 笑顔でお礼を言ったら、またリュシアン様に怒られてしまった。


 けれど私はとても幸せな気分で、リュシアン様のしかめ面をただじっと見つめていた。



終わり

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王子を殺しかけた罪で幽閉されてしまいました 水谷繭 @mutuki43

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