第55話
「フェ、フェリシアンさん、何をする気ですか……」
「あなたは相当リュシアン殿下に大切にされているようですね。王家に連絡したときの様子でわかりました。あなたが死んだら悲しむだろうなぁ。ルナール公爵管轄の屋敷で大切な婚約者が死んだとあっては、公爵もただでは済まないでしょう」
彼はナイフをこちらに向けながら、歪つな笑みを見せる。ベアトリス様がすぅっと私の横を通り抜け、フェリシアンさんのそばに行った。
彼女は止めようとするようにフェリシアンさんの腕に手を伸ばすが、その手はあっけなくすり抜けてしまう。
「殺人犯になってしまってもいいんですか」
「もちろん覚悟の上です。俺は処刑されるでしょう。けれど、王家とルナール公爵に復讐できるのならどうなっても構わない」
フェリシアンさんの目には一切の迷いがなかった。
静かにこちらに近づいて私の腕を掴もうとする。
慌ててその手から逃れ屋敷の奥へ逃げようとするが、あっけなく距離を詰められる。フェリシアンさんは私の腕をつかんで庭に引きずり出した。私は地面に倒れ込む。
フェリシアンさんは扉を塞ぐようにドアの前に立っていた。これでは屋敷の中に逃げ込めない。
「逃げてもいいですよ。どうせ庭の門より先には出られないんだ」
フェリシアンはうすら笑いを浮かべて言った。その顔はどこか楽しんでいるように見えた。
私は恐怖に駆られながらもよろよろと立ち上がり、彼から離れようと庭の奥へ駆けて行く。
フェリシアンさんはわざとらしくゆっくりと歩いて私を追った。まるでわざと泳がせて、少しずつ追い詰めるのを楽しんでいるみたいだ。
私はわけがわからないまま、とにかく走った。
彼が油断しているうちにとにかく逃げて、隙をついて屋敷の中に入らなければ。監視係は二人以上でないと屋敷の中までは入れないはず。
それだけを目指して逃げ回るが、すぐに息が切れてしまう。
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