第4話 運は微笑むのかぁ~

 こんな事あってはならないと、本気で雪乃は思うっている。

経費を使っておばちょんなんて

いかんいかん! みんな安易過ぎるでしょ! 雪乃は溜息が止まらない。机に突っ伏し、ボソボソと文句を垂れ流している真っ最中だ。

「あの……佐々木さん。佐々木雪乃さん! いらっしゃいますか?」

雪乃には全く聞こえてない。 

二年先輩の小田が気が付き叫ぶ。

「おい~おい~おい!おい!!雪!」

「なんだ! 煩いな! 何か用ですか!」

雪乃は顔だけ上げると声の方に目線をやる。

チッ、煩いよ小田先輩。

「雪! なんだ! その顔は! 本当偉そうなんだよ! 俺は先輩だぞ。もうふざけるなよ。おっと、それよりあちらに他部署の方がいらしてるぞ」

雪乃は鬱陶しそうに体を起こし、入り口見ると、そこには見たことあるような、ないような男性がにっこり笑ってこちらを見ていた。誰だ?……なんと彫りの深い美しいお顔と、これまた優しげな笑顔。雪乃の眉間の皺は一瞬にして伸び、すくっと立ちあがると、上擦る声も何のその。

「は……い…わたくしが佐々木でごいます……」

「あぁ良かった、お会い出来て。私営業よりお手伝いにまいりました比嘉と申します」

 部屋が一瞬ザワつく。

あれあれ噂のあの人だよ~綺麗な人だね~ってさぁ、もう~煩いんですけど。雪乃は慌て身だしなみを整えると、蹌踉けながら比嘉に走り寄り深々と頭を下げた。

「おお~有難うございます! わざわざお出で頂いて。こちらからご挨拶に伺うべき所を。どうぞこちらにお入り下さい。会議室でお話させて頂きます! 順子は……いないか~」

順子は自身の担当の打合せで出てしまっていた。

「いえいえ。ではお邪魔致します」

丁寧に一礼し部屋に入ってきた比嘉を、会議室に案内する。

噓! この人あの人だ! 神様!

「あの~先ほど……トイ」

「そうですよね。おトイレの前で、ぶつかった方ですね」

「はい! 奇遇でございますね。

運が付くなんて言っちゃて~」

やだぁ~部長ギャグじゃ無いか~

一瞬目を丸くした比嘉だが、そこは営業で鍛え上げている鋼の心臓。全く動じずキッチリお返をしてくる。

「アハハハ、そう~ウンですね~運も才能うちですからね。頑張りましょう」

会議室に入り、改めて自己紹介をする。

「では改めまして、佐々木雪乃でございます。この度はお忙しいのにすみません。でっ資料は?」

「こちらこそ、足を引っ張らないように頑張りますので、よろしくお願い致します。資料は一応部長から頂いております。って言うか、敬語とかやめましょうよ。ねっ! チームワークとかを考えると、下のお名前で呼んだ方が打ち解けるのに早いと思うんで、雪乃さんとお呼び為ても構いませんか? 僕は竜でお願いします」

 お~名前呼びあうの? 

やった! うふふ~だがしかし、

左薬指にはキラリと光る指輪ぁ~やっぱりありました! 残念無念……トホホ。まぁ仕方ない。お仕事出来るだけ有難いと思え! 雪乃~。

「では、早々に説明させて頂いて大丈夫でしょうか?」

「はい! お願いします雪乃さん」

「でっ、では三ページをご覧ください」

「えっと、三ページですね」

比嘉の声の響きには、人の心をどこか安心させるものがあった。

既婚者だと判っていても、胸の奥がチリチリと痛む雪乃であった。

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