第5話 兄への想い

「それってもしかして、お兄さんの事?」

頷く秋也は、少し口篭りながら話し始めた。

「兄貴は中学の時に、同性にしか恋愛感情を保てないってい判って、相当悩んでいたみたいだった。俺は小さかったけど、何となく判っていたよ。だって仲良しの男子が遊びに来ると、いつもより何百倍も嬉しそうなんだ。

だから、ある時兄貴に聞いてみた。あの子の事大好きなの?って。そしたら兄貴は、驚いていたけど、ふたりの秘密だよって指切りしたんだ。小学生の俺には秘密ってワクワクする響だったから約束は守った」

「って言ってもさ、ご両親は判らなかったの?」

「判る訳ないよ。家の親なんて

勉強さえ出来れば良いんだから!だから兄貴の事は、大のお気に入りだったよ。でもまさか自分の息子がね……普通は考えないよな。鈴の親だって、鈴が女性しか愛せないって話したら、笑っていられる?」

「どうだろう……う……ん無理だろうな。その世界を想像出来ないだろうから。お兄さんは、その……カミングアウト……は?」

「うん。高校の入学式で兄貴は、ゆずに一目惚れ。いやぁ、兄貴は相当頑張ったらしいよ。ゆずをふり向かせるのに。ゆずの言葉を借りると、純情で可愛いくて、守りたくなる。なのに男らしい所もあって、その矛盾が堪らなく良いんだってさ。兄貴の努力が実って、二年になる頃には、当たり前のように付き合っていたし。まっ、これまた当たり前のように、ふたりの将来を考えるようになり、そこでお互いの両親に話したんだよ」

「え~それって……大変な事になるよね?」

「そりゃもう、勘当される寸前まで行ったよ。兄貴は無理矢理私立へ編入させられた。。ゆずも郊外の都立高校に編入させられて」

「辛かったでしょうね……」

「辛い? そんな生半可なもんじゃなかったよ。俺は兄貴の頭が変になるって本気で心配したんだ。普段大人しい兄貴が毎日のように部屋で暴れるんだ。親とは一切話さない。誰の話も聞かない……ゆず、ゆずって言いながら毎日泣いていたよ。携帯も取り上げられて、毎日母親が車で学校の送り迎えだぞ。あの頃の親達はかなり異常だったと思う。俺は親に勝手過ぎるって言ったよ。兄貴達に人権はないのかって。だけど理解しやしない。だから俺は俺が出来ることをしようと決めて、連絡係になったんだ。手紙だけがふたりの世界を繋げていたよ。

ふたりは本当良く話し合っていたと思う。成人するまては親がかりだから、ゆずは毎日バイトしまくり。兄貴はさせて貰えなかったから、小遣いを出来るだけ使わずに貯めていた。兎に角必死だったよあの人たち……」

「それで成人して家を出たの?」

「うん、何回も何回も親と話し合って、親も根負けしたんだな。 やっと同じ大学に入ることを許されて、まずゆずが先にひとり暮らしを始めたんだけど、律儀なんだよふたりとも。成人式済ませるまでは兄貴はゆずのアパートにも行かないんだ。よく我慢出来たよ。いじらしいほと頑張ってた。

そして、成人式を終えた兄貴は、家を出てゆずと暮らし始めた。そうそう大学の学費は、今だに親に返済しているよ。ふたりとも」

「凄いねぇ……それで今は理解してくれてるの?」

「理解はしてないと思う。諦めているだけ。でもふたりは互いにの家族を大切にしている。もう十年以上変わらないよ。そのスタンスは。そしてふたりの愛は益々強く深く為っている……。

俺は、愛ってあのふたりが体現していると思っているんだ。だから判るんだ。愛する事、愛されている事を大切にしている奴は」

 私はもうなにも言えなかった。

親からも世間からも理解されにくい愛の形を貫く高校生の心情を想像できるわけが無い。

そしてその姿に触れてきた秋也の想いは……尊いよ……。




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