第4話 つい話してしまったけど

 私は、たった四カ月しか付き合っていなかった男の事を話し始めた。たった四カ月……なのにこんなにも心に入りこまれているのが悔しくて哀しかった。

……本気だった……

「たかだか四カ月で、何が判るのかって言われればそれまてだけど。別れを切りだされるまでは、本当に幸せだった。だからあの人の言っていることが信じられなかった」


 秋也はじっと私を見つめている。

「私の体はあの人の愛撫を感じられていない……喘ぎも演技だよって言われた。体の反応も鈍くてまるで乾ききっている。どんなに丁寧に触れても何も変わらなかった。だから不感症なんだろうって言われて。一度その手の病院にいった方が良いとも言われてしまったの。

……自分は二カ月後スペインに転勤が正式に決まっている、だから申し訳無いけど、君の面倒見られなので今日でこの関係を終わりにしたい。然し……その若さで不感症とはまじ可哀想だな。治る事祈るよだって……判るこの気持ち?  不感症だって……乾ききった女だって……然し笑っちゃうよね。でも、一番辛かったのは愛はなかったと思い知らされた事……」

アルコールの勢いで一気に話してしまったが、内容が内容だけに流石の秋也も、かける言言葉など持ち合わせていないだろう。話された相手は理解できるわけ無い。特に男性は……。

 あの夜は何一つ言い返せずにいた自分。でも考えれば考える程解らないのだ。

私は独り言のように呟いた。

「あれから思うんだよね。セックスって何だろって。感じるとか不感とか正直判らない。誰でもがちゃんと判ってセックスしているんだろうか。好きな人に抱かれるから心地良い。だから感じているって思ってしまうのは間違いなのかな。

まぁ個人差はあるし。私は不感症だからそんな偉そうな事言えないけど。

感じてないのに下手な演技為てるとかさ。可哀想な子だとか同情されなきゃいけないのかな。

そう言うの……それっていつ判る? 私は自分が不感かどうかなんて日々考えて生きてないよ。 もしかしたら、私の体のことを丁寧に教えてくれてありがとうなのかな? アハハハ……あぁ男性は良いなぁ……構造的には判りやすくて」 

 世間知らずで、すべてを鵜呑みにしていた馬鹿で都合の良い女。唯一残念だったのは、私がまさかの不感症だった事。だから捨てられただけだ。それだけだ。

 でも、これから誰かを好きになったとして、こんな話しを相手に話せるのだろうか。隠してセックスしたっていずればれてしまう。そしてまた捨てら、恐ろしいループにはまるんだ。怖くて、とてもじゃないが恋愛なんて出来ない。もう傷付くのはごめんだ。女としての人生は終わったとしても。

 暫く無言だった秋也の声は何故か明るかった。

「そっかぁ、ひでぇ男に引っかかったな。幾つだっけそいつ」

「四十六才」

「そいつちゃんとした恋愛為てねぇなよ。人を好きになるって、楽しい事ばかりじゃないんだよ。辛いことだって沢山あるんだ。それでも好きだから、その人が大切だからこそ踏ん張るんだよ。お互いにね」

「そんなこと判るわ! なによ偉そうに! なんで秋也が判るのよ? そんなきれい事言わないで!」

 一瞬沈黙した後秋也は呟いた。

「判らないかも知れない。でも、間近で死ぬほど頑張ったふたりを見てきたから。だからきれい事なんて言わせない!」

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