第3話 まさかの後輩!それも……

「綺麗だねぇ、驚きだわ!」

「羨ましいだろ? 男なのにあんな綺麗でさぁ」

「煩いねぇ、どうせ私はブスですから!」

「自分で言うなよ! ククク」

 こいつ一回張り倒す。

「でもさぁ、先輩にゆずはないでしょ! 砕けすぎだよ」

 秋也は聞こえてないのか、

「ねぇ、戸川高校陸上部。何か思い出さない?」

「その高校は私の母校……陸上部には入っていたけど。えっ!

 もしかしてあの秋也? 小さな小さな秋也クンですか?」

「ふぅ~やっとかよ! ほんと失礼だよな。でもまあこんなにいい男になってるし。身長もすげぇ伸びたから判らないのは仕方ないけど。一応告られた相手なんだから。忘れるなよ馬鹿鈴!」

 面影は微かにあると言えばあるような気もする。でもまさか同じ会社にいるなんて普通は考えない訳で……だから忘れていた。

 一年でちびで可愛くて生意気だった。短距離で全中の記録持ちながら、高校では学校生活を謳歌したいと頻りに言っていた。

そして、夏季合宿の最終日に告白されたのだった。

誰にも言ってはいないが、実は自分も好意は持っていたが、二学年上はかなりハードルが高かった。

今なら全く気にしないけど。

「断った理由覚えている?」

 頷く私。

「今度逢ったとき、身長が175㎝になってたら付き合うって言ったよな」

 固まる私。だって私より実際十センチは低かった。それにもう会う事も無いと思ったから。

 秋也は口を尖らせながら、

「俺は今185㎝だぞ!」

「えっ! ちょっと待て! 嘘! 本当!?」

「俺は、一度たりともその約束忘れてない。鈴は忘れていたけどな」

「そんなぁ……思い出さなかったが正しい表現! 大体こんな事想像つかないって」

 今度は秋也が頷く。

「確かに。同じ会社に入るのは俺の賭けだった。もし鈴が幸せなら、すっぱり諦めるつもりだった。だから傍で鈴を見ていたかった。鈴の事が……鈴の事が……ずっと好きだったから。それが何だよ! どんな失恋したらこんな有様になるんだ。それも不倫だって? ざけんなよ」

「はあ? 誰情報? 絶対不倫ではありませんから!」

 ノックと共に入ってきたるゆずるが、

「楽しそうだなぁ。はい! ビールね。後は適当にご馳走するから」

 私は慌てて、

「そんな! 困ります! ちゃんとお支払いしますから」

「良いの良いの。気にしないで」

 と笑いながらゆずるは部屋を出て行った。

「なあ、ところで率直に言って今はどうなん?」

「なにが? 失恋ですか?」

 頷く秋也。

「そりゃ辛いよ。ただ単に振られたならここまでにはなりません」

「刃傷沙汰か?」

「ないない。いやまぁそれに近いかなぁ。私の心がナイフで抉られたから」

 秋也は茶化さなかった。

「すげぇなぁ。そこまで女を痛めつける事なんて普通できるんか」

「おつまみお持ちしました!」

 今度はノックなしだった。わおっ、この元気なイケメン誰?

「兄貴、鈴世先輩。鈴、兄貴の夏弥」

「いつも弟がお世話になっています。今日は来てくれて有難う。

 ゆっくりしていってね」

 あ~行ってしまった! 秋也が見とれている私の頭を叩いた。

 先ほどの方と言い、この方と言い、美しき男性陣を見せていただけるなんて有難き幸せですよ。

「兄貴は鈴の二学年上。それに高校では帰宅部だったし様子も随分変わったから」

 なるほどそりゃ判らんなぁ。

「兄貴は高校から10㎏ぐら落としてるんだよ」

 凄い! 10㎏ダイエット教えて下さいお兄様!。

「鈴だって変わったよ。あの頃はもっと可愛げがあったよ」

「当たり前だ! 社会に出ればそうそういい子じゃいられないの!」

 秋也は鼻を鳴らしてビールを一気に飲んだ。

「美味ぇ。鈴も飲めよ。酔っぱらって話せよ失恋話。聞いてやるからさ」

そんなこと言われてはい!そうですかなんて言えるわけないんだけどね。

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