第1話 爽 片想い

 私、山内爽は先月二十八才になった。中堅のイベント会社勤務のOL。

半年前に二十一才の大学生矢島健人と真剣交際を始めた。

遊びなんかじゃない。

どうしようも無く好きになってしまった。

先のこと? さあ? 今は浮かれている! 気持ち良いくらいに。

◆その三カ月前

 矢島健人への想いは、誰にも気づかれてはならない。おばさんかとち狂ったと思われるだけ。

第一彼が相手にするわけない。

そんな日々を悶々と過ごしていたある日、焦がれている相手矢島健人から、事もあろうに恋愛相談に乗って欲しいと言われた。なんで私? 神様は意地悪か!

 矢島は一年前からバイトに来ていた。イケメンで仕事が出来て、人懐っこい性格となれば誰からも好かれる。そりゃ社内のお姉さん達がほっとくわけ無い。って私もそのひとりの訳だが。

 然し、矢島には気になる女子社員がいた。その羨ましい女子社員とは夏川絵美。な、な、なんと私の同期だ! 全体にコンパクトに纏まったボディと、あざと可愛い顔だちと表情が男性社員から人気があり、絵美も満更でもなさそうだ。

 矢島も何かと、ちょっかいを出しているが全く相手にされていない。それは傍から見ててもありありと判る。

 相談の最中私は偉そうに、だいたい若いんだから、おばさんなんか相手にするなと言ってしまった。すると夏川さんたちの年齢はまだおばさんでは無いと、逆に説教為れる始末。

そのくらい夏川絵美が好きなんだと思い知らされた私は、どんと落ち込んでまい、暫く立ち直れなかった。もう年下やめろよと何度言い聞かせでも、矢島の姿を見かけると、声を聞いてしまうと、切ない想いが溢れ出てきて、実るわけも無い想を募らせてしまう情けない自分が大っ嫌いだ。

あなたの姿を追ってしまう。

その瞳は違う誰かに今日も釘付けなのに。

胸を締め付けられ、苛々為ながら意味のないヤキモチを焼く。

ちょっとだけ……ちょっとだけで良いから……私を見て。

私の恋心が呟く

 夏川絵美は同期の中でもよく話す方だが、さすがにお互いの恋バナまでは語り合わない。

 そりゃ当たり前。三十路に手が届こうとしている女はそう簡単に胸の内は暴露しないのだ。

プライドが許さぬ。

 ある時、絵美が一緒お昼ご飯食べようと誘ってきた。

社食に向かう途中、絵美は声を潜めながら矢島のことを話し始めた。

「最近さ、バイトの矢島くんに絡まれていて困ってるんだよ。」

絵美は溜息交じりに呟いた。

「最近って……まぁ見てて判るよ。良いじゃない話す分には。結構イケメンだし性格だって良いよ」

「ふっ~他人事だと思って。私いるんだよね……付き合っている奴がさ。」

私は思いがけない絵美の言葉に

思わず絶句、

「何驚く事? いて可笑しくない年です! 三十路ですよ~わたしたち!」

「そうそう三十路だよね~クゥ~それで同じ会社の人?」

絵美はケラケラ笑いながら、

「秘密~秘密~フフフ教えない~ 

さて、何食べようかなぁ。」

券売機の前で迷っている絵美の背中を見つめながら、ふと矢島の顔が浮かんだ。

ショックだろうな。こりゃ泣くか? まさかそこまでは無いだろうが、落ちこむよね。また相談乗るとかになるのかなぁ、嫌なんだよねぇ。だって、あいつの辛そうな顔見ると、こっちが倍は落ちこむから。


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