第6話 加速する想いに

 金曜日とあって車内の雰囲気は緩るかった。

 爽の酔いも少しずつ醒めて来ていた。けっこう混んでいる。ギュウギュウとまでは行かないが、近くのつり革は空いてない。

仕方なく爽は、バランスを取るために必死に踏ん張っていた。

「爽先輩俺に捕まって」

「有難う。でも大丈夫だから」

さっきから下を向きっぱなしの爽は小さい声で答える。

矢島はフラフラしながら意地を張っている爽を抱き寄せる。

「あっ、ごめんなさい! 迷惑かけて……先輩なのに酔っぱっちゃうし……恥ずかしい」

爽はそう言うとまた俯いてしまった。矢島は平常心平常心と心の中で唱えながら、

「爽さんお酒弱いからね。でも先輩だから許します」

「別に許さなくていいよ! それにそんなに弱くないもん!」 

私駄目だ! なにがもんだ!

しっかりしたいのに……つい甘えたくなってしまう。体が熱い。

もうぉ、心臓が煩いんだから。

お願い聞こえていても、気付かないふりしてね。恥ずかしいから。

「弱くないもんかっ~弱いもん!でしょ。アハハ」

「ばーかばーか。矢島君のバカ」

爽は、抱き寄せらている矢島の胸にそっとおでこをつけた。

あぁどうしよう……好きがどんどん加速していく。もう止められない。

背中に廻されている矢島の腕に力がはいったのを感じた爽。うそ! 抱き締めてくれた?

だったら嬉しい……上から見下ろされている矢島に、頭の中を見られているような気がして泣きたくなる。

「爽……苦しくない?」

「えっ…ッ?」

声が上擦った……一気に顔が火照る。呼び捨て? これって?

思わず矢島の顔を見上げる。

 見つめ合う瞳と瞳。

「やっと顔上げてくれたね。爽……好きだよ」

耳元で静かに囁く矢島の吐息に、

体の奥が反応してしまう。

爽はまた俯いてしまった。

矢島はその反応が愛しくて、

思いっきり抱き締めると、矢島の胸に顔を埋める爽から、鼻を啜る音が聞こえてくる。

爽の顔を覗き込み、

「鼻を拭くなよ~ククク」

「拭いてないもん! つけてるだけだもん!」

やばいやばい! これ以上煽らないでくれ。

「こら~お仕置きするぞ~」

驚く爽は顔を上げて、

「ちょっとだけ付いた」

「ついちゃった? もう何しても可愛いよ」

ダメダメ! なんでそんな事言えちゃうの? 心臓が壊れるよ。

甘えたい! ううん甘えちゃうよ……いっぱい。

さっきより少しだけ強く、しがみ付いてくる爽の気持に答えるように、そっと髪にくちづけを落とす矢島だった。


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