第7話 やっとこの手に

 爽の華奢な指が矢島のジャケットを必死に掴む。

矢島はその手を取り、

「次だよ。大丈夫……離さないから」

やっと繋いだ手なんだ、絶対離すものか。

 花冷えの夜、散り始めた公園の白い花びらが冷たい風に舞う。

爽が微かに震えたように感じた矢島は爽を抱き寄せた。

「やっぱりまだ冷えるね」

「うん……それよりごめんね、途中下車させて」

「何それ、大切な彼女を送るのは当然でしょ。それに本当はね、爽ともう少し一緒にいたいんだ。駄目?」

「ううん! 駄目なんて……私も一緒にいたい」

甘い息苦しさが心地良い。抱き寄せられるたびに、互いの温もりが、君を欲しい、あなたが好き、と伝え合う。

「なんて幸せな時間なんだろう。これって夢じゃないよね」

「それ私が聞きたいよ。こんなおばさんで……」

矢島の唇は、後の言葉を言わせなかった。

爽の柔らかな唇に何度も啄むようなキスを落とす。

その度に小さな喘ぎ声をあげる爽に煽られ、次第に矢島の口づけが深く為っていく。

爽は一生懸命舌を絡ませる。

突然爽は体を離し、矢島の顔をジッと見つめる。

「ほんとにホントの恋人で……じゃ……両想いですか?」

「そうだよ。正真正銘の恋人だよ。って両想いって中学生ですか?」

「へぇ~それ~普通に言うもん!」

「ふふふ、そっか~そっか~判ったよ」

可愛すぎるだろ~爽!

「ねぇ、ねえ、あの……てほしい」

わざと聞こえない振りをしている矢島に気付かず、

「あのね……あの……だからね~うちに……」

口ごもる爽の唇を優しく貪り

「聞こえてたよ。照れてる爽が見たくて、聞こえないふりしたの」

「もぉ、いじわ……」

可愛い……やっぱりこの人が好きだ! 堪らなく好きだ。

好き……大好き。泣きたいほど好き。

もっと抱きしめて。もっと……。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る