第4話 お見合いの最後

 私たちは中道通りをぶらぶらと歩いていた。

飲食店以外は殆どが終わっている。会話も殆どなくて、ちょっと気まずい空気が流れ始めている。

何か話さなくちゃ、

「ほらね。言ったとおりでしょ? 面白そうなお店は終わってるし」

「うん。でも俺は別に……あっ! 見たいお店があった? だったらまた一緒に来ようよ」

エッ? それってまた逢いたいって事? またまた、社交辞令なんて聞きたくないし。

和也は、そんな私の気持ちを見透かすように、

「逢いたくないなら仕方ないけど。俺はまた逢いたいと思ってる。まさか社交辞令なんて思っていないよね」

どうした、鼓動が乱れて苦しい。

言えば良いだけなんだ。私も逢いたいって。でも、どんな顔して言えば良い? この年増のおばさんが今更可愛く私もよなんて言えない! 恥ずかしい過ぎる。やっとの事で絞り出した言葉は

「べ、別に嫌じゃないけどね。時間が合えばさ。逢っても……」

予想してなかった。まさか……

「何だよ。それ……酷えな。さっきまでの素直な千早さんは如何したの? 俺はさ逢いたいよ。

でも、気持ちがない相手と時間は合わさないだろう。無理なら無理って言えば良いんだよ。何たって俺は見合王なんでね。どんな状況でも耐性は出来てるから。お気遣いなく」

嘘! 怒らせた? だって……もの欲しげ見えたら嫌だった。それだけだったのに。

どうしよう、どうしたら良い? 

これまた自分にビックリ! 涙が溢れてくる。 何故だ! 止まれ! 和也に気付かれないうちに。顔を横に向け、そっと手の甲を頰に当てる。もう嫌だ~鼻水が出てくる。仕方なくバックを開けてると、横からハンカチが差し出された。

「はい……これ。さっきは、ちょっと言い過ぎたね」

嬉しかった。あの後ずっと私を気にしてくれていたんだ。そして絶妙のタイミングでのハンカチ。

もう~身も心も蹌踉けそうだ。

なんと軽い女だ私は!

「……有難う……」

ハンカチを握りしめたまま動かない私の腕を取り、和也はゆっくり歩き始めた。

「逢いたい……だって」

和也は立ち止まり私の顔覗き込んだ。

「本当にしていい? 俺は本気だか…」

顔が見られない。俯く頰に雫が止めどなく流れる。最早号泣に近い。おかしいぞ私!

「千早は泣き虫なんだ」

「泣き虫なんかじゃない! 生まれてから、これで五回目だから!」

一瞬のうちに和也の腕の中に閉じこめられた。

「はいはい……オオカミ少女の千早。そんなこといってると、オオカミに食べられるぞ」


ほんのちょっとだけ、それも良いかななんて思った私って……






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それは時として思考を抑え込む。 紫陽花の花びら @hina311311

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