第1話 雪乃 突き抜けるぞ

佐々木雪乃は二十五歳。

ステーショナリーを扱う会社に勤めている。色白で華奢。幼さを残している顔立ちとは裏腹に、態度は大きい。そこは172センチの身長と比例していてると、周りから言われているが、本人は性格がさっぱりしているだけだと、気にも留めていない。

 そんな雪乃でも、恋愛はからっきしなのだ。初恋は中学時代。それも三年間片想い。告白なんてとんでもない。遠くから眺めてはどきどきしていただけの小心者だったが、高校では逆に告白されて、断るのに四苦八苦。ストーカーまがいの相手に、一時期学校に行けなくなり、仕方なく地元進学をやめて大学は東京を選んだ。

だが、本当は誰も自分を知らない場所行ってみたいとの、切なる願い大きかったのだ。

 東京で暮らすようになって、雪乃は閉鎖的な田舎暮らしから、他人の事なんてよっぽどでなければ意識しないこの都会空気に、ある種の心地よさと安堵さえ感じている。誰とも連まない事で心を守ってきた雪乃は、大学でもひとりで生きていた。踏み出せないまま、壁を作り上げた。傷つくのが怖い? 勇気がない? 違う。自分が自分を認めてあげていない。

まずこの自分ハードルを乗り越える事から始めよう。まずは就活からだっ! が、受けた会社は最終面接まで行っても、採用には至らなかった。理由は判っている。でも、こう何社も落ちると、心を病むのではと、恐ろしくなってきた。最後の一社が駄目だったら、バイト生活に突入だ。その事は親も判っていてくれる。今の雪乃にはそれだけが救いだった。

 諦め半分で臨んだ最後の中堅企業。キャラクターグッズや、ステーショナリーを扱う会社「角半」

最終面接はおじいちゃん役員? に当たった。とことんついてない。おじいちゃん役員は、目の前まえに座った雪乃を見て、絶句為為たまま数秒間固まっていた。

だが、質問に答える雪乃の真摯な態度、淀みない性格をいたく気に入った様子で、話しは弾み笑顔で面接を終える事が出来た。

そして、おじいちゃん役員が最後にかけてくれた言葉が、雪乃の心に光を灯してしてくれたのだった。

「人生は情熱だよ。私は降りかかる火の粉はどんどん来いって思って生きていた。そんなもん叩き落とし、蹴り飛ばし進んだ。待っていてもなにも始まらん。やらにゃぁなにも判らんのよ。なんだってそうだよ。だからお前さんを気に入った!」

雪乃はこの言葉を聞けたことだけでも、ここを受けた意味はあったと思えたが、受かるとは思っていない。世の中そんなに甘くないのは判っている。

 二日後、お祈りメールだと思って開くと、なんと! 採用メール! 狂喜乱舞、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった雪乃は、

「おじいちゃん役員さん有難うございました!」

と、叫んでいた。

 そして入社式で判明した驚愕の事実。おじいちゃん役員はなんと会長だった事を知り、雪乃思わず椅子からずり落ちたのだった。



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