第3話 傷? まさか……足掻き続けるんだ。全てはそこから
「あ~ごめん連絡しなくて。こっちもさあ就職決まって……音楽業界ひでぇよ。早々に扱き使われているんだ。体は大丈夫なの? そうそれは良かったよ。そっちも忙しいんでしょ? うん、それでさぁ、ちょっと言いにくいんだけど、俺たちこれで終わりに為ない? これから先付き合っててもメリットも無さそうだし、何より辛いんだよね。瑠美の顔見てるの」
黙って聞いていた瑠美は、
「とりあえず一回会おうよ。電話で話す話じゃないでしょ?」
「あ~いいよう。明後日の日曜なら。うん。じゃあの公園ね。十時 じゃあね」
電話を切った瑠美は笑い出してしまった。
逢わずにこれで最後にしようって? メリット? ククッ、ないわ確かに。でもねぇ言葉を知らないのか。いい気持はしないよ進くん! 何だか滑稽だよ。
まあ取って食う訳無いんだから会いましょうよ。君は嫌々OKしたけど、判るよその気持ち。面倒くせぇなぁって思ったでしょ? でもねそれじゃとんでもなく人でなしだよ~私たち。未練は無いよ。ただ、最後に消してしまったあの子にね……二人揃って言葉をかけてあげたいんだ。意味? 大いにあるでしょ。親なんだから。
待ち合わせの時間に公園へ行くと、そこ、ここに紫陽花が咲き乱れていた。本格的に梅雨入りしたんだ。
季節は変わって行くのに、私も進も何も変わっていない気がしてならなかった。
ねぇ、雨ってね空から落ちてくる雫なんだよ。汚れた道とか洗い流してくれたり、生き物にはとっても大切な物なんだよ。
だけどね、人の汚れた心や、消したい出来事はね、どんなに降ろうが何も洗い流してはくれないんだ。人間の都合良くは行かないのよ。
そしてこの雨の時期にはね、紫陽花って花が咲くの。雨に濡れて初めて綺麗に見えるって私は思っている。なんかね悲しみを待っているよう気がする。だから少し切ない花だなぁって想うの。
公園に先に来ていた進を見つけても最早何も感じない。あの人がお父さんになるはずだった。人だよ。ああ嘘でしょ。もっと言葉が出てくると思ったのに。
何も何も……無い。進は別れる言い訳を、壊れたロボットのように繰り返している。
「判った。話しはそれだけ? 私? 言いたいことねぇ……あの時は愛し合っていたと、今でも思っているよ。誰がなんと言ってもね。進が否定しても。でなきゃ、あの子が辛すぎる」
「否定なんかするかよ。それに当然だろうが! 俺だって好きでもない奴抱けるかよ」
「まあね。そこは信じるとして、最後に進と為たいことがある。一緒にあの子の事を想って、言葉をあげたいんだ。もう……あの子事思い出さないでしょう? だからさ、良いかな?」
瑠美たちはその瞬間、重くのしかかるあの日に戻った。互いに言葉を発することは無かったけれど。感じた。それだけは嘘じゃ無い。
進は瑠美の手を取ると空を見上げた。
「ごめん。ごめんな。許してな。ううん許すな。許さなくて良いんだよ」
「忘れないよ。生きているよ。私の胸に」
初めてふたりで泣いた。あの子を想って流した最初で最後の、ふたり重なった心がそこにはあった。
「どんな事があっても瑠美を忘れられないわ……そして……この事とも」
「いやいや、もう良いから。じゃあ元気で」
雨が降り出した。泣いてるの? 泣いていいよ。
「あっそうだ。は~い鍵~」
瑠美は思いっきり高く投げた。
雨に惑わされて見失った? 捜しなさい! 濡れなさい! あの子の涙だもの。
何があっても人生は続く。誰の人生でもない私の人生。惑わされて叩き墜とされても這い上がる。それを面白がり平然と痛めつける……それは他人? それは自分?
だからなんだ。それでも進めよ! 弱音は吐かない、言い訳なんか為ない、って言ったってさ。決して強くはない流される弱い心は、その度に震えるに違いない。
だから焦るなよ。諦めるなよ。空を見上げ深呼吸だっ!心落ち着いたら、
振り返えりたがる心に手を振りながら前を見て歩く。
生きるよ! あなたの分まで……だからか……もう謝らない!
行こう! 一緒に。
終
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