第2話 それは痛かった!

 入社して周りを見渡せば、職場の男性は、ほぼ既婚者だった。

判ってはいたが、ここまでかぁってね。中には不倫関係の人もいるらしいが、いやいや不倫は駄目! っていうより、第一不倫してでもと思えるような男性はここにはいないし。はい! 自分随分低い棚に乗って降りますが。それが何か?。

 用を済ませた同期の順子が、隣で手を洗いながらお得意の男性情報をぶち上げはじめた。

「ねぇ 雪は見た? 隣の部に来た比嘉さん。超格好良いよぉ。比嘉って苗字だから、きっと沖縄出身だよね。でさぁ、何より仕事もできるんだって。あの男見る目が厳しい佐和が言ってんだから。そりゃぁやる男だよ。スタイル良し。顔良し。仕事良し! の三拍子揃っているとは、最近の我社にはいないタイプですよ~ねえねえそう思うよね!」

まあまあベラベラと良く喋る奴、まだ続くのか~。

「それでさぁ雪、このフロアで、もうすぐ恒例の飲み会があるじゃない。今から楽しみだよねぇ。

だが然し! ここで残念なお知らせです。その比嘉さんも既婚者なんだって……だから目の保養だけね」

またか~もう既婚者いらん! たまには独身採用しよう~会長様! 社長様! うちの会社は、兎に角中途採用の男性が多い。

理由は至ってシンプル。経験積んでる=即戦力=年行ってる=既婚者が多いとなる訳。

 中途採用は、余計な新人研修なんてやらなくて済むだろうと、言うのが、会長の考え方なんだよね。

例えば、ITに詳しい人材が欲しければ、都度募集をかけるというやり方なのだ。まあ中堅にしては業績が良いので、そこに予算を付けられるからこそ出来る話。

 順子の携帯がなる。

「お〜判った。急いで戻る。かけ直すって言ってね。悪い! 雪 先行く」

雪乃が返事したときには、順子の姿は影も形もなかった。

「いつにもまして、速いね~順さんは」と呟きながらハンカチをポケットに仕舞いながら、順子の後を追うように、急ぎ足で化粧室を出た途端、男性トイレから出できた人と勢い良くとぶつかってしまった。

「痛い!」

雪乃はよろけた拍子に相手のスーツを思わず掴んでしまった。

「すいません! 大丈夫ですか?」

わあぁ~しびれる声。

「あっ、はい、こちらこそす、すみません」

雪乃はすぐに手を離した。

「いえ、私が慌てていたもので……」

目が合う。お~綺麗な顔立ち……誰だ?。

誰だか判らない彼は、深々と雪乃にお辞儀をすると、チンと止まったエレベーターに向かって、大声で叫ながら猛烈に走り出す。

そして、あっという間にその中へと、消えて行ったのだった。


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