第1話 瑠美 無責任極まりない自分
思いだしても辛い。
今なら違う選択があったかもしれない。
いや、絶対あの選択は為ないだろ。
でも浅はかな自分は、何より自分を選んでしまったのだ。
その時は自分には到底出来ないと決めてかかっていたのだ。
誰もそんなこと起こるとは思っていない。
でも……起きてしまう。
どうして自分の身に?
もしかしたら今も、困惑しきって泣きじゃくっている人たちがいるかも知れない。
どんなに進んだ社会になったとしても。
だから……自分を大切して
だから……自分を愛して
だから……相手を大切にして
**************
どうしよう
出来てしまった!拙い!失敗した!
瑠美は何度も数えてみる。
何を勘違いしたのか、あの日は排卵に当たっていた。
酔っ払ていたわけでは無かったのに。
知り合いから紹介されて、来年社会人になる五才下の子と、春頃から付き合いを始めていた。
軽率と言われても仕方ない。
数回デートして……なかなか大人びた子で、話しも面白く気がついたら。
それでも……いや……気の緩みの極み?
好きだと思っていた。
遊びとは思っていなかった。
彼もそうだと思うが、今問題はそこには無い。三回検査したがプラスとしか出ない事が問題なのだ。最早猶予が無い事は判る。
少し離れた、降りたことも無い駅にある産婦人科医に受診し、それは現実になってしまった。
「なんでもっと早く来なかったの?」
そりゃ当たり前のことだ。
女医さんだって厳しい口調にもなるだろ。
「仕事でひと月ほど東京にいなかったもので、あれも不順で……」
何を言おうとあちらはプロなわけだ。
「で? 決めてきたの?」
ストレートに聞いてくる。
口ごもる瑠美の心を見透かす女医は、
「継続しないんだね。 ったく、管理も出来ないで……今更だけどね」
俯いたままの瑠美に追い打ちをかけるように、
「早くしないと、あなたの体にも心にも負担がかかるのよ。相手の人とは話しできてるの?」
「いいえ……今から話そうと……」
「仕事してるんじゃ、平日無理だろうから、今度の土曜日午前十時に来て。彼氏にしっかり話しなさい。責任は同等なんだ。それから二人だけの話ではないのよ。三人の人生なんだから。それと継続するなら直ぐに連絡してね」
「はい。で、もし……いつの土……」
「今度の土曜って言ったら明後日だよ。しっかりしなさい。一日も早くしないとって言ったでしょ!わかったら後は、看護師から説明あるから。はい! 終わり」
別室で色々説明を受けて、幾つかの書類にサインをした。看護師からも継続出来るようになれる事が一番だからと諭され病院を後にした。
「あっ、今電話大丈夫? 話しあるんだけと」
「どうした? 元気無いね」
あるわけ無い……。
「ちょっとハードな話しするから」
「判った。 座るから待って。はい 良いよ」
「もうすぐ四カ月だって、生理不順だったし……出張とかでバタバタしていて、でも流石に未だに来ないのは拙いから、今しがた産婦人科に行ってきた。継続し無いなら明後日処置になるって言われた」
声は震える。感情的ならないよう出来るだけ事務的に説明した。黙って聞いていたは進は、
「産むなら結婚するよ」
と、いとも簡単にその言葉を口にした。
はぁ? 何? 結婚するって言った?
「責任は取るよ。その先どうなるかわからんけど」
待て、待て、なんだ? それ。
「私の事愛してる?」
陳腐な事聞くな……馬鹿!。
「わからんけど、嫌いじゃ無いから為たわけだよ」
少しの沈黙の後進から自分の部屋で話そうと提案され向かった。
瑠美たちは長い時間話をした。結婚も視野に入れようとなっても、あまりにも現実的は無い話しにお互い言葉をなくしていく。貰ってきた書類を見せながら、説明している自分が情けない。大人だろうが自分は! 兎に角仕事は今は辞められない。
責任ある立場で仕事を回している。進だって来春就職して社会人になる。不規則な時間帯の仕事だ。結果は目に見えているのに不毛な話し合いが続く。
本当は結論なんて出ているのに、どちらが言い出すかだけだ。
「継続しないから……このままで結婚しても三人共幸せになれる気がしないし」
「良いのか? 俺は瑠美の意志を尊重するよ。費用は払うから」
待ってましたかよ! 仕方ないよね。当然の反応だわ。
然し……突然瑠美は震えだした。止められない。
寒く寒く寒くて、どうしようも無く寒い。
「大丈夫だからか……大丈夫だからか」
独り言のように言い続けている。
進も、瑠美の様子を見て、とんでもない事なんだと気づいた。
「明後日ここから行こう。荷物取ってこいよ」
と言ってはくれたが、一緒にいたところで何も変わらない。
傷は深くなるだけだ。
瑠美は判っている。君の責任は無いんだよ……私が五才も上で、そう自己管理ができなかった結果起きた後悔。結局自分が流されて失敗したのだ。
瑠美は断った。不毛な会話をこれ以上為たくなかったのだ。
当日駅で九時に待ち合わせをして部屋を出た。
何気なくお腹を触ってみる。ここにいるんだ命が……。
歩けない! 一歩も踏み出せ無い。涙止まらないよ。
でも、産みたいと思えない自分がいる。人間ではない私。鬼畜だった……。
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