第2話 思い遣るってなんだ?

 それはある日突然俺を襲った。

佐知をいつも通り誘った。

最早義務化している感はあるにはあるが、それに対して遂に爆発か? それとも俺に嫌気がさしているのか判らんが、 

「疲れているから」 なんと素っ気ない物言いだ? あいつは感情のない言葉を俺に投げつけて、背中を向けて寝てしまった。

「へえ?」

何とも間の抜けた俺の心とその気になっていた諸々が一瞬にして萎えていった。

それからと言うもの、空振りばかりで、いい加減誘うのもバカらしくなり、一切それには触れないことにしたのだ。まあそれ以外は普通の夫婦と変わらない。いやっ、あいつの物言いが、日増しにキツくなっていくのが空恐ろしくなっていた。

「なんだよ……たかが飲み会の連絡入れるのが遅くなっただけで、そんないきり立つか?」

晩飯要らないと言う連絡を入れるのが遅れたのだ。それをグチグチと責めてくる。今までなら笑って済ませてくれていたのに。

「遅いでしょ! もう夕飯作ったのよ! 全く人の気持ち考えないよね。自分勝手なんだから」

電話口で怒鳴られれば、帰宅してから言い合いになるのは避けられなかった。

 それからは……触らぬ神に祟り無し。出来るだけ話さないようにしようと心に決めた。

 ほぼ毎日苛々しているあいつを見ていれば、だいたい更年期障害だろうとは思うが、いまいち対処の仕方がわからん。

同期の田中からは経験談として、

「あまりガッツリ心配すると、かえって病人じゃ無いとか怒り出すから、知らん顔していたほうが良いぞ。話す時は穏やかに穏やかにだ」

そうなのか? そんなこと言われても我慢にも限界はある。

それに俺も何だか苛々する。

仕事でくだらないミスをして、自己嫌悪に落ち、部下のミスに声を荒げてまた落ちこむ。変だ。俺らしくないぞ。それに急にカッカとしてのぼせる。首回りに異様に汗を掻く。あいつに相談したくても、あんな状態では出来るわけ無いしな。

 ああとうとうやってしまった。

今朝雨があまりにも酷くて、タクシー呼ぶか考えていた矢先、レインコートを渡された。雨の中歩けと? タクシー呼ぶ? ぐらい聞けよ! はいはい歩きますよ! 

レインコートなんて着られるか! 汗が酷いから困るんだよ。

朝からぶすっとして、私絶不調ですみたいな顔して立ってるなよ。

苛つくわ。レインコート投げてしまったのはやり過ぎだったけど。

体が重くてしんどいよ。

 

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