第1話 雄一と晴美 何なの? この関係……
私たちはもうすぐ銀婚式を迎える。子供は一男一女。それぞれ
独立しているので、今は第二の新婚気分を味わっている。
なんて現実はそうそう甘くは無い。
まあそれでも、ふたりの生活を考えていれば日々は、淡々としてはいるが結構楽しく感じていた。
健康志向なんて大袈裟でないにしても、自然と和のメニューが並ぶ事が多くなっている。
魚を煮たり、焼いたり、たまに肉とか、根菜の煮物、酢の物、味噌汁、豆腐等、決して手抜きではないが、家事を簡素化していく中で、ふと最近ふたりの関係が寒々しくて虚しく感じていて、これも私の更年期障害のせいなのか。
でも、こればかりはどうしようもない。何気ないあの人の一言に苛ついてしまう。なのにあの人は全く気にも留めてくれない。体が辛いと言っても、気づかいなんてない。逆にそれがどうした的な暴言を吐く始末。そう……そんな時の私の心は、まるでぐちゃぐちゃに丸められた紙屑になったようで遣りきれないのだ。
あぁ今朝はどしゃ降り。体が怠くてしょうがない。何も言わずに
レンイコートを渡すと、あの人は蒸れるから要らないと玄関に放り出して行った。放り出すって、いくら何でも酷い。もう好きにすれば良いんだ! 親切に出してあげたのに……全く嫌な奴になったものだ。 駅まで二十分は歩くのにずぶ濡れになるから……
それよりもコーヒー豆を買ってきてって頼みたかったのに。レンイコートの一件ですっかり忘れてしまった。もう! 頭に来る!。
お昼過ぎになっても雨の勢いは増すばかり、風もどんどん強くなってきた。
どうしようか……行きたくない。
コーヒー豆ひとつ買うのにタクシーなんてバカバカしい。暫く考えてあの人にラインを入れた。電話をしようかと一瞬頭を掠めたがやめた。一日一回ぐらい私からのラインチェックしているだろう。
いくら何でもそのくらいはしてるはず。
七時過ぎに帰宅したあの人は、物凄く不機嫌だった。
「お帰りなさい」
「……」
「如何したの?」
「……」
「コーヒー豆買ってくれた?」
「はぁ? んなもん知るか」
「知らないって何よ。ラインしたけど」
「ラインなんてみねえよ」
「あっそ、いつも既読無視だからね」
「電話すれば良いだろうが」
「仕事中にできるわけないから
ラインしてんだけど」
「だいたい、買い物行けよ。俺はこの雨でも仕事行っているんだ。行けないことなかったはずだ」
「判った! 判りました。後でコンビニ行って来るから。すみませんでした!」
「なんだ? その言い草!ったく! 早く飯にしろ。飯!」
どうしようも無く悲しくなった。キッチンに入って御味噌汁を温めながら、止めどなく涙が頰を濡らす。悔しくて情けなくて……言葉が出てこない。
険悪な雰囲気の中、夕食を終えた私たち。片付けを終えてキッチンからてできた私と目も合わさずに、
「コーヒー」
と言ってスマホをいじり始めた。
「だから、豆がないの!」
もう駄目。ないの知っていて、コーヒーなんて言われたら、それはもうケンカを売っているよね。
だから買った。
ねぇなんでそんな酷い事が言えるの? 気持ちがあればそんなこと言わない。だから……私たちはもう終わったって言ったの。
言い返してくると思ったから。
でも、あの人は何も言わずに出て行ってしまった。
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