第4話 此ってひとり沼

 正樹は温かいんです。

波が泣いているとき。

  怒っているとき。

  戸惑っているとき…

必ず必ず、抱き締めてくれます。

訳なんか聞きません。


黙ってお茶を入れてくれます。

そして必ず、「傍にいるよ」

って言ってくれます。

こんなにステキな男性はいません! 離れたくない……

***

 波は心が沈んでいるときの方が、まともな気がするんだ。

嬉しいとき。楽しいとき。

交感神経が踊りまくっていっている。それはそれは、異次元に突入しているから、俺のような凡人はついて行けない……寂しいけどね。遠い遠い存在としか言えない……苦しいけどね。


だがしかし! これに関しては

俺にもやれる! と言う気持ちになれて恥ずかしながら頑張ってしまうのだ。

……エッチ……そうエッチ!

その時は幸せの絶頂。

やった感半端なし。その反動が 翌日午前中に来てしまう……俺は所詮しがないサラリーマンな。

あ~しがないんだよ。だから怖いんだ、いつか必ず失態を犯して、クビ! になるかも。そうなったら? ぷ~だよ。この時勢それは拙いぞ。

兎に角! 要するに! こんな時だけ漢になる俺! そして精根尽き果てる。やめたくてもやめられない! 決してあの艶めく肉体のせいではない。すべは意志薄弱の俺が悪い。

午前中残念男。午後がお前の朝。正樹はお先真っ暗。こんなキャッチいらん。俺自身を立て直す為に別れて下さい。波ちゃん……俺を大事だと思うなら。後生だから! 悪いのは本当に俺なんだけど。

***

正樹は、会社で辛い思いしてる。

だからこの際会社やめよ~。

そして結婚しましょう。

そう! いい考え! ねっ!

***

 駄目だ!俺はね、自分を立て直す為に別れるって言っての。

話し聞かない星人になるなよ。

意思の疎通は最早出来ないの?

波ちゃん? 俺のこと好き?

うん! 大好き正樹!

俺が泣いたら? 慰める?

勿論! 涙ふいてあげる。

そして抱きし締めてあげる。

俺が風邪引いたら?

薬買うよ! 看病する!

仕事なんてしないで、ずっと隣にいる。

俺が物凄く疲れていたら?

早く寝かせてあげる。

俺が寝てたら?

勿論! 静かにしている。

俺がもう寝るから起こさないで

って言ったら?

その通り起こさない!

絶対? 起こさない?

勿論! 起こさない!


よし! 録音出来たぞ

あら~波のために録音してくれんだね、有難う! 正樹優しい!

いやいや……お礼なんて……

違う! 言質を取ったのに……

お礼なんて言われたら……

もう~やってらんない!


正樹は優しい! 正樹は温かい!

いつだって波のこと考えてくれてる。

そうだね。僕は優しいんだよ。

だから優しい正樹の話しは、ちゃんと聞いて約束守ろうよ。

判ったら手挙げて~

ハイ!ハイ!ハイ!


波さんボーズ!

写真撮りましたよ。

約束した証拠写真ですからね。


では……正樹は眠いので寝ます!


ハイ! では子守唄歌います!

えっ! そんなのいらないよ~

あら? 要らないの?

判りました。じゃお休みなさい!

波は静かに原稿書きます。

では~goodnight ~チュッ


愛する人は……正樹です。

あなたをいつも思っています。

泣きたくなるほどに愛しているのです。

正樹……あなたは私の命なのです。

だから……傍にいたいのです。

ごめんね。困らせているのは判っているの。でも……どうしようもなくて……あなたを前にすると

心のネジがポトンポトンって外れていく。


 真夜中、いるはずの温もりは隣に無い。小さないびきがリビングから聞こえてくる。そっと襖を開けると、疲れ果てて眠る波がそこにいる。

画面は送信済みか。お疲れさん! 


浅い眠りの中で、カフェオレの香りが鼻に纏わり付く。

大好きな声が耳ともに来る。

「大丈夫か?」

「うん」

何も言わず抱き締め髪を撫でくれる。

「良い子だ、良い子だよ波」

ああ……ああ……あなたが大好き。やっぱり正樹は温かい。

私だけの正樹。


カフェオレ飲めなくて……ご…め…ん……おや…。


さあ……お姫様抱っこするか。

おっと、おもっ! ったく……

筋肉つけなきゃなぁ。

……お休み俺のお姫様。


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