第9話 メンバーの糸繰アイナと.....軋轢の存在

「今日は本当に有難う。.....来てくれてとても嬉しかった。楽しかった」


「そうか。.....また機会があったら行くから」


「だね。お土産いっぱいでゴメンね」


「そうだな.....まあこれもお前の愛情だから」


「お?言う様になったねぇ」


そんな感じで会話をしながら俺は階段下で見送られる。

俺は真帆を見ながら、サンキュー、と言葉を発する。

真帆は、うん、と少しだけ紅潮しながら笑みを浮かべた。

そして俺は手を挙げたまま帰宅する。


「.....良い子だな。やはり」


その様な事を呟きながら信号待ちをしていると。

ねえアンタ、と声がした。

背後を見ると.....そこにかなり見慣れた顔が。


いや。正確にはテレビで良く見る.....顔が。

コイツは確か星の鏡のメンバーでは?

クリッとした茶髪をしたかなり可愛い女子。

糸繰アイナ(いとくりあいな)だったっけか。


「.....アンタが翼くん?」


「.....そうだが.....良いのか。こんな場所でサングラス無しとかの.....有名アイドルが顔出しって.....」


「良いの。別に。認識しやすいでしょ?」


「.....そうだが.....」


「.....それは良いんだけど.....アンタ。.....真帆の好きな相手だってね」


「まあそうだな」


青信号になったが。

渡らずに俺達は一対一で見つめる。

警戒しているといきなりだがアイナが頭を下げた。

それから、真帆と付き合ってくれない?、と言ってくる。


「.....それはどういう.....意味だ?」


「真帆に幸せになってほしいから。.....だからお願いをしに来たの。わざわざ仕事を休んでまで。.....あのマネージャーが気に食わない。.....だからもうあの子を幸せにしたいの」


「.....」


「まだ付き合ってないんでしょ?.....だからお願いをしに来た」


「お前は真帆の幸せを願っているのか?」


「そう。じゃないとこんな真似しない。.....あの子が.....初めて好きになった相手だから」


「.....」


アイナのイメージが壊された。

正直茶髪でかなり厳ついと思っていたのだが。

性格とか悪いイメージで、だが。

だが今.....俺はアイナにイメージを覆された。


「お願いします」


「.....アイナ。俺は.....アイツに好きって言われてもまだ付き合う気はないんだ」


「.....何故?」


「アイツは人気アイドルだろ?まだ辞めない限りはファンとかにも周りにも申し訳無いと思ってな。色々とアイツにも過負荷が掛かるだろうし」


「そこまで計算しているの?」


「そうだ。俺は.....アイツの身が心配だ」


「優しい男を捕まえたね。あの子」


アイナは笑顔を浮かべる。

そして八重歯を見せた。

俺はその姿に、だな、と返事をする。

それからアイナは、じゃあさ。辞めたら付き合ってやって。あの子と、と話す。

約束だ、と俺はアイナと握手した。


「アイツは確実に守る。俺は.....アイツに興味を惹かれているから」


「.....うん。まああの子ならマジに攻めてくると思うから」


「それはアイドルとしての規範にどうかと思うが」


「だって一途だしねぇ。本気のガチに」


「.....そ、そうか」


それにしても安心した。彼氏さんが良さげでね。

とアイナは笑みを浮かべる。

そして、私はマジな幸せ者だね、と言ってくる。

何だ?どういう意味だ?


「.....こんな至近距離で友人の幸せを見れるんだから。これに勝る幸せはない」


「.....そうか。.....お前って良い奴だな」


「この地毛のせいでどういうイメージを持たれていたかは知らないけど。私は.....良い奴だよ?」


「.....アイナ。有難うな」


「どう致し.....いや。あの子が好きになったんだから。そんなお礼なんて」


「現にお前は応援しているんだろ」


うん、と柔和になるアイナ。

すると少しだけ複雑な顔になる。

俺は?を浮かべて見る。

オレンジ色の夕日がアイナに当たった。

そして、でも気を付けな、と言ってくる。


「.....みんながみんな歓迎している訳じゃないの。現在のこの活動休止状況をね。軋轢が生まれているから。気を付けて」


「.....やはりか。.....それは予測していた。.....気を付けるよ。サンキューな」


「うん。私は良いけど。.....同じメンバーの小鳥遊由奈(たかなしゆな)はこの状況を歓迎してない。.....何とも言えないけどね。アイツの考えはマジに分からない」


「そうか.....分かった。気を付ける」


そしてアイナは、うん。それが言いたかった。じゃあ、と去って行く。

俺はその姿に、ああ。じゃあな、と返事をした。

それから俺は顎に手を添える。

そうしてからそのまま考えながら歩いて帰った。


因みにピーナッツクッキーだが。

40枚近くを全部食っちまってしまった。

妹が、である.....オイ。

俺の分は。

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