第11話 小鳥遊由奈と糸繰アイナと翼

『えへへ。ねえねえ。重大発表観た?』


「.....観たっつーか.....全国ネットとかテレビでマジに凄い事をするなお前.....」


『私は恋する普通の女の子になりたい。.....だからこれでもう問題無いよね。全部公表した。もう障壁は無いでしょ?.....だから約束を守ってほしいな.....』


「.....」


アイドルを引退するというテレビでの重大発表の夜の事。

また真帆から電話が掛かってきた。

こんなに一途な女の子が俺に惚れている。

俺は.....その事に赤面せざるを得ない。

何というかむず痒い。


「.....でもそうだな。.....約束は約束だもんな。俺の負けだ。.....付き合おうか」


『.....!.....うん。有難う翼くん。.....これから先.....ちょっと厄介かもだけど.....良いかな.....』


「.....ああ。全て知って分かってる。.....お前のメンバーとかの事だろう。納得してないんだろ?マネージャーもそうだが」


『そう。.....納得をしていないよ。.....特に.....小鳥遊ちゃんがかなり怒りっぽくなったかも。私に対してだけど」


「それは仕方が無いよ。こういう軋轢は人間社会なら生まれるんだよきっと。それに.....お前はとても良い子だからな」


『おお!そう言って下さるのですな?恥ずかしいで候』


恥ずかしいで候っておま。

しかし何を言ってんだ俺は?

お、おう、と返事をしながら小っ恥ずかしくなって頬を掻く。

そして机にスマホを耳に当てたまま写真立てを見てから突っ伏しながら、なあ。真帆、と言ってみる。

それから、俺な。色々と失恋しているんだ、と話した。


『え?それは.....?』


「.....とは言っても相手は全てを分かって言ったんだ。その子とはもう二度と会えない。.....死んだからな」


『.....え.....』


「幼馴染の栗谷泉(くりやいずみ)って名前の女の子だった。.....足が悪かったんだが.....ある日に何でか心臓麻痺で死んでしまった」


『.....翼くん.....』


だから.....まあ恋愛に臆病になっているのと。

あとお前に重ねてしまうのを恐れて。

俺はなかなか付き合おうと思わなかったんだ。

それにアイツは.....俺の身を心配していた。

でも今から俺はお前を愛する事にする、と笑顔を浮かべる俺。


『.....私は全部.....その。全然気にしない。.....その子の事も尊重したい』


「.....!.....お前.....」


『.....私は貴方を支えたい。貴方を.....それ以上に愛したい。恋したい』


「.....毎度毎度そんな小っ恥ずかしい台詞をよく言えるなお前」


『だって私は翼くんが大好きだから』


「.....」


それはまあ理論としては成り立つけど。

でもそんなに愛してくれるのが.....、と思っていると。

インターフォンがいきなり鳴った。

俺は?を浮かべて、真帆。すまないけど電話切って良いか、と言う。

真帆は、うん。.....え?来客?、と聞いてくる。


「そうだな。しかしもう19時なのに来客?おかしいな.....」


『.....そうなんだ。.....じゃあまた明日ね』


「おう」


そして俺は妹と一緒に玄関を開ける。

それから驚いた。

何故かと言えば.....コイツは.....小鳥遊由奈!!!!?

俺は驚きを見せながら小鳥遊を見る。

静かに怒っている様に見える。


「貴方が翼くんですか」


「.....まあそうだな」


栗毛色の髪の毛に。

長髪に蝶のカチューシャ。

緑色をしている。


そしてエメラルドの.....瞳。

コイツは確かイギリス人のクォーターだったなそういや。

考えながら目の前の美少女を見る。


「.....お前な。何の用だ。この時刻に」


「率直に言います。.....恋人同士なら今直ぐに別れて下さい。真帆と」


「ああその事か。残念だが断る。.....それを言いに来ただけなら今直ぐに帰れ。俺は別れないし相手が俺を好いているしな。相思相愛だから」


「.....本当に.....貴方は何も分かってない。.....貴方が居るから.....真帆が遠くに行ってしまう.....」


「.....は?」


憧れを取って貴方は良い気分でしょうね。

良いご身分でしょうね!!!!!、とその場で絶叫する小鳥遊。

どういう意味だ、と聞くと。

私の目標を.....奪った。

こんな形で終わってしまうなんて、と泣き始める。


「私は.....真帆もみんなも好きなのに.....貴方というインシデントのせいで仲の全てが崩れていく.....真帆が遠くに行ってしまう.....」


「.....由奈さん.....」


「.....」


ああ分かった。


成る程な。

コイツは好きなんだ。

メンバーのみんなが、だ。


だからこそ『今』が大切で。

離れ離れになりたくないんだな。

俺が邪魔なんだな.....。


「.....由奈」


「.....何でしょうか」


「.....俺からは安心してとは絶対に言えない。.....だがこれだけは守る。今からずっとな。お前の吐いている仲を崩す真似は絶対にしない。.....俺は真帆が好きだ。.....だからこそお前らも好きだ。幸せにしてあげたいって思う。お前らが心配しない様に」


「.....」


由奈は俺の妹からハンカチを受け取りながら。

涙を拭ってから俺を見上げてくる。

膝から崩れ落ちていたその肩を触る。

由奈。絶対にお前らを不幸にしない、と言う。

そして、約束だ。それは他のメンバーにも伝えてくれ、と笑みを浮かべる。


「.....約束.....ですよ。真帆を不幸にしたり仲を崩したりしたら殺します」


「.....ああ。その時は切腹する」


「.....」


そうしていると、だから言ってるじゃん?、と背後から誰か現れた。

それは.....アイナだった。

俺は!?と思いながら妹も驚愕しながら見る。

アイナは八重歯を見せながら、安心しても良いって、と由奈に向く。


「お前が連れて来たんだな?」


「そうだね。絶対に行きたいって言うから。真帆から翼っちの住所を聞いてね」


「.....悪い子だなお前」


「.....ゴメンな」


だけどどうしてもって言うから、と苦笑いを浮かべるアイナ。

それから由奈の肩に手を添える。

由奈は頷いた。

そして俺を見てから深々と頭を下げる。

真帆を宜しくお願いします、と母親の様に、だ。


「.....ところで翼ちゃん」


「.....何だ?アイナ」


「腹減ったから何か食わせてクレメンス」


「.....お前な.....2chみたいな。女子だろお前.....」


「良いから。な?由奈。何だかそこにいらっしゃる翼っちの妹ちゃんの料理はとても美味しいって業界でも評判だから。由奈も食おうぜ」


「え.....でも良いのかな.....」


いや業界っておま。

三つ星のシェフか俺の妹は。

何を俺の家を勝手に実家みたいにしてんだ。

俺は苦笑しながら妹を見る。


花梨はキラキラと目を輝かせて、ま、ま、だい!任せて!!!!!、と興奮した。

鼻血を出しながら、であるが。

オイ.....興奮し過ぎだ。

気持ちが悪いぞ。

何処ぞのおっさんかよ。

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