第35話 告白

かなり捻れている。

何がと言えば今の状況が、だ。

俺はトイレを済ませてから戻って来る。


今の俺の所属している組の合計得点は3位だった。

つまりあまり宜しくない。

告白には程遠い。

絶望的とは言えないが。


「翼くん」


「.....ああ。真帆。どうした?」


「.....カノンさん.....好きな人分かった?」


「.....分からないな。話していたの見たのか?」


「チラッとね。でも忙しかったから」


そうか、と返事しながら上を見ると。

水亀と視線が合った。

それから俺は目線を逸らして真帆を見る。

真帆なら信頼出来るかな、と思う。


「真帆。少しだけ話がある。良いかな」


「え?何のお話?」


「.....それぞれの恋バナだ」


「.....!.....うん。分かった。じゃあここから離れようか」


「そうだな」


そして俺達は人目が付かない屋上にやって来た。

当然だが無断外出である。

その為に猪熊先生に怒られそうだが。

でもこの場所しか無い。

無事に話が出来そうなのは、だ。



「.....カノンさんは水亀が好きらしい。.....そしてアイナは富義が、でも富義はカノンさんが好きなんだ」


「.....そうなんだね。何となく予想はしていたけど」


「そうだな。.....取り敢えずはどうしたものか、と思ってな」


「うん。.....でもこのままじゃダメだよね。きっと」


「恐らくは何処かでほつれが出る。だから何とかしないといけない」


そうだね、と言いながら真帆は真剣な顔で顎に手を添える。

それから考え込んだ。

そして顔を上げる。

富義くんにショック受けて欲しくない、と答えが出た。

それはそうだな、と思う。


「.....アイナは知っているのかな」


「それは.....まあ知っているんじゃないか。富義の恋バナぐらいは。そんな隠し事は苦手だしな。富義は」


「そうなんだね」


「ああ。だからそこも問題だが.....」


富義に水亀にどう伝えるか、だな。

俺は考えながら.....空を見上げる。

そして顎に手を添える。

どうしたものか、と思いながら。

でも、と真帆が言った。


「.....優勝しなかったら告白しないんだよね?」


「.....それはそれで逆に問題だな」


「確かにね。ますます捻れそうだね」


「そうだ。だから.....」


と言っていると。

屋上のドアが開いた。

それから、お前ら此処に居たのか、と猪熊先生が顔を見せる。


俺達はビクッとしたが。

そんな事は気にせずに猪熊先生は話した。

そして、富義が足を捻ってな。それで運ばれた、と言ってくる。


「.....取り敢えず行ってくれるか。先生はちょっと休憩のつもりで此処に来たから」


「.....はい」


「分かりました」


俺達は頷き合いながら.....保健室に向かう。

すると.....アイナの声がした。

俺は!と思いながら真帆と共に隠れる。

そして、富義くん、と声がする。

そんな富義は、有難うな。運んでくれて、と言っている。


「.....う、うん。大丈夫」


「.....お前は優しいな。力持ちだし。そんな事は言ってはならないが」


「そ、そうだね」


そんな声が聞こえてくる。

俺達は耳をすましながら.....声を聞く。

すると、ねえ。富義くん、と言うアイナ。

富義自体は、何だ?、と柔和に返事をしている。


「私が.....その.....」


「.....?」


「えっと.....その.....」


いつの間にか頑張れアイナ!、的な感じになっている真帆。

興奮気味に窓から見ている。

俺はその姿を見ながら耳をすましていると。

富義が、捻挫か。悲しいな、と落ち込む声がした。


「.....そ、そんな事ない!!!!!」


「え?.....何故だ。このままでは.....」


「アンタはよく活躍した!だから.....」


「アイナさん?」


「私は.....だから.....このまま負けてほしいって思う」


「クラスが?.....何故だ?」


この願いは叶わない。

だけど.....私はアンタにまっすぐに言う。

私はアンタが好きだって、と切り出した。


こんな割り込みは絶対にダメだけど、とも。

今言うべきじゃないけど、と。

俺達は!!!!!と思いながら音に耳をすます。


「.....何だ.....って.....」


「.....私は.....アンタが私に勉強を教えて。いつしかアンタに心が向いていた。.....だからアンタが好き」


「.....アイナさん.....」


俺は窓から覗いてみる。

難しい顔をしている。

っていうか俺ら変人だわ、と思うんだが。

考えながら見ていると。

そうか、と返事をした富義。


「俺は.....こんな情けない姿を晒して.....馬鹿だなって思った。.....だけどそうか。こんな近くにまた別目線で見てくれている人が居たんだな」


「.....そ、そう。だから.....」


「何れにせよ.....俺は一人前になりたい。.....だから今は保留でも良いか。.....もし今度の三者面談で.....夢が決まったら君に返事をする」


「え?それって.....」


「考えたい。.....だけど答えは近々出す。じゃないとおかしい」


「.....富義くん.....」


それにしてもさっきから覗いているお前らは何だ、と言ってくる富義。

俺は崩れ落ちた。

バレとったか!!!!!、と思いながら。

そして真帆と共に入室する。


「.....つ、翼っち!?」


「.....おう。アイナ」


「アイナ.....」


「.....恥ずかしいもんだな。全く」


富義は赤くなりながら額に手を添える。

俺はその姿に真帆と顔を見合わせてから、そんな事はねぇよ、と言う。

それから富義を見る。

お前見事だな。やっぱり、と言う。


「.....何が見事か。全く」


「.....お前なら幸せに出来そうだ。全てを」


「俺はまだ返事をした訳じゃない。だから全てを保留だ」


「.....富義くんってキザだよね」


「言ってやるな」


お前達は.....全く、と言いながら後頭部を掻く富義。

何というかこんな形でアイナが告白するとはな。

まあ.....これで少しは楽になったか。

俺の感情もそうだが、だ。

後がどうなるか、だな.....。

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