第49話 空に消える息と
結論から言って渡は誘拐されていた。
何故それが分かったかのか。
それは渡が公衆電話から連絡してきたから、である。
その元から逃げた、という事を。
そして警察に渡は証言したが犯人は佳苗だった。
これだけやれば罪は重くなるだろう。
まあ予想通りだったけど。
だが.....少しだけでも希望が逸れてほしいと思ったがそうはいかなかった。
俺はリビングで真帆から聞いてから.....溜息を吐く。
それは心底重い溜息だった。
「.....どうしたものかだな.....」
「そうだね。.....もう本気で堪えらないよ本当に」
「.....滅茶苦茶ですね。もう何もかもが」
「.....そうだな.....」
そんな感じで話をしながら眉を顰める真帆を見る。
真帆は、私はこの件は許せない。絶対に、と怒りの言葉を滲ませる。
青筋でも立っているかの様に。
俺は.....その姿を見ながら、怒るのは分かるが、と言う。
それから真帆を見た。
真帆はゆっくりと顔を上げる。
「.....佳苗なんぞを相手にしても仕方がない。アイツは.....地に落ちてしまった、という事だ。あんなボンクラはもう相手にしない事しかない」
「.....捕まるかな」
「捕まるだろうな。.....アイドル狩りは犯罪だ。.....だから捕まる。こういう悪い事をしている奴らは絶対にな」
「.....渡ちゃんが逃げて良かった。今」
「そうだな.....」
俺は顎に手を添える。
それから考え込むが.....どうしようも無いな。
思いながら俺は花梨を見る。
花梨も悩んでいた。
俺はその姿を見ながら飲み物を真っ直ぐに見る真帆を見る。
「.....私。絶対に捕まってほしいって思う。.....反省してほしい」
「.....そうだな」
「.....だから.....絶対に警察の人達に頑張ってほしい」
「それは分かる。反省を促さないとな」
そして俺は真帆を見る。
真帆は真剣な顔をしながら窓から外を見る。
その顔は決意の証だった。
俺はその姿を見つつ、真帆、と声を掛ける。
すると真帆は、何?翼くん、と向いて聞いてくる。
笑顔だったが.....重い声だった。
「.....そんなに真剣になっても仕方が無いから。.....笑顔になろう」
「そうだね。.....分かった。翼くんが言うなら」
「.....話が変わるが.....プール掃除とか誕生日とか楽しみだな」
「もう少しだね。.....何もなかったら良いけど。.....もう懲り懲り」
「.....それは確かにな」
そんな感じで弾む様に会話しながら俺達は笑みを浮かべる。
それから居ると.....花梨が、ジューンブライドもありますよね、と聞いてくる。
俺は、そうだな、と返事をした。
そして真帆を見た。
真帆は、そうだね、と俺に向いて頬杖をつく。
「.....こんな中で申し訳ないけどな」
「私が謝る所だよ?これ。大丈夫」
「.....」
俺は神妙な顔になる。
すると、翼くん。これと今回の件は別にして.....大丈夫。笑顔になるよ、と満面の笑顔で言ってくる真帆。
俺はその姿を見ながら、だな、と目を閉じて開けてから言う。
そして真帆を見ていると、じゃあそろそろ帰るね、と言ってくる。
俺は、ああ、と言いながら立ち上がる。
「.....泊まっていかなくて良いか?.....不安なんだが」
「.....うん。大丈夫。.....今日はタクシーで帰る」
「.....そうか。.....でも不安だ」
「.....分かる。.....でも帰らないとね」
そして立ち上がる真帆。
それから、じゃあね、と柔和な笑みを浮かべる。
俺はその姿を見てから、じゃあ一緒に見送るよ、と玄関に向かった。
まだ明るいが.....それでも不安だな。
「翼くん」
「.....何だ?」
「.....私の事、心配してくれて有難うね」
「それは当たり前だろ。.....お前は俺の彼女なんだからな」
「.....うん。そうだね」
口角を上げながら俺は真帆を見る。
俺達は見合いながら頷き合う。
そして.....そのまま真帆をタクシーに乗ってからそのまま発進するまで見送る。
それから俺達は玄関先の警察官に頭を下げる。
俺は眉を顰めた。
「.....捕まるまでこの状態が続くのがキツイな」
「そうだね。.....でも仕方が無いんじゃないかな。.....お兄ちゃん要だしね」
「要.....か。.....そんなに大きなもんじゃないけどな」
「.....でも大きいよ。お兄ちゃんの存在」
「.....」
俺はそのまま夕暮れの空を見上げる。
そして溜息を大きく吐く。
それは.....空にそのまま吸い込まれる様に消えていく。
とは言っても息は寒空じゃ無いから見えない。
しかしそれが吸い込まれた空の雲が曇り始めている。
困ったもんだな.....俺達の感情を表しているかの様だ.....不気味だ。
早く家に入りたい。
「.....中に入るか」
「そうだね。お兄ちゃん。.....あ。そうだ」
「.....ん?」
「.....お兄ちゃん。お疲れ様。いつも」
「いやいや何もしてないぞ。.....何だいきなり」
「うん。まあ尊敬しているという意味で。.....ね」
「.....突然と変な花梨だな」
お兄ちゃんのせいだよ、と言う花梨。
俺は!と思いながら。
俺達は見合いながらクスクスと笑う。
そして警察官にまた挨拶してから.....そのまま家の中に入る。
しかしまあ何というか何処に居るのか.....だな。
佳苗自身が。
自首してくれたらマジに良いのだがそういう気配は無いから防衛するしかない。
立ち向かうしかない。
大きな鉄筋コンクリートの壁に立ち向かうぐらいの.....レベルで。
電車で痴漢から少女を救ったのだがその少女が大人気アイドルのリーダーであってしかも何故か活動休止して俺の家に来たんだが アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou
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