第30話 炭になったクッキー
アイドル。
それは.....まあ簡単に言ってしまうとそんなに楽な仕事じゃない。
その事は勉強していて知ってはいたが。
これだけ真帆が怒るぐらいなのだ。
もしかしたらそれ以上に楽じゃ無いのかもしれない。
「ゴメンね。あんな怒った姿。見せたく無かったけど」
「気にすんな」
「.....でも本当にアイドルは舐めてもらっちゃ困るから」
「.....」
真帆を実家に送り届けようと俺達は一緒に歩いていた。
ギリッと唇を噛む真帆。
その姿に頭に手を添える。
それから撫でた。
「俺はそういう自己主張出来る彼女は良いと思う」
「.....翼くん.....」
「.....俺は.....お前とどうあっても結婚するから。.....だからそれだけ強くあってほしいと思っている。それを十分に満たしているからな。お前は」
「.....恥ずかしいね。アハハ」
言いながら真帆は少しだけ照れ笑いをする。
それから俺を見てくる。
翼くん。私の事を信頼してくれて有難う、と言ってくる。
俺は?を浮かべて真帆を見る。
「どういう意味だ?」
「翼くんが必死にやってくれた。.....何を?そうだね。私を彼女だから信頼しているってそう言ってくれたよね」
「それは当たり前だろ。.....真帆は信頼出来るから。だからそう言った」
「.....うん。でもそれが嬉しかった」
私は.....信頼されているなって。
そう思えたから、と言ってくる。
初めの方から聞いていたんだな.....恥ずかしいもんだ。
考えながら俺は赤面しながら頬を掻く。
小っ恥ずかしい。
「私は翼くんのお陰で強くなった」
「.....レベルアップって感じか?」
「うん。もう無敵。翼くんが居るから」
「恥ずかしい事ばかりだな。言ってくるのが。全く」
「.....私は.....恥ずかしい事も言うよ。自慢の彼氏さんだもん」
そして俺を見上げてくる真帆。
俺はその姿を見ながらまた恥ずかしくなる。
だけど.....そう言ってくれてマジに嬉しい感じだ。
信頼されているな、って考えれるから。
本当に.....心から。
「翼くん。ここまでで良いよ」
「.....ああ」
いつの間にか真帆の実家に着いていた。
俺は真帆を見る。
真帆は頭を下げてきた。
そして、じゃあね、と言ってくる。
俺はその礼儀正しさに感銘を受けながら、じゃあな、と挨拶してから。
そのまま自宅に帰る。
すると.....黒い煙が.....篭っていた。
☆
「.....煤だらけになった.....」
「もー.....こんなん.....げほっ」
「何やってんだお前ら.....」
帰って来ると.....ルナと花梨が何かをしていた。
が煤だらけになっていた。
何かを作ろうとしていた様だが?
俺は苦笑して目を細めながらその姿を見る。
「.....煙たいな。取り敢えずは換気しないと」
「クッキー作るだけでなんでこんなに.....」
「私はやっぱり料理が下手です」
「.....アハハ。大丈夫だよ。ルナさん」
ああそういう事か。
俺は思いながら苦笑いで窓を開ける。
それから換気を始めた。
そしてルナを見る。
「ルナ。随分と頑張ったじゃないか」
「頑張ったけど炭になっちゃったです」
「それは頑張りの証だ」
「.....そうですかね?」
台所が汚れて申し訳無いです、と言ってくるルナ。
俺はその姿を見ながら花梨を見る。
花梨は慌てる。
言い出しっぺは私だよ。だから気にしないで、と言う。
俺は、だぞ、と話す。
「.....美味いお菓子が作りたかったです」
「.....大丈夫だ。.....花梨に任せろ」
「そうだね。今からクッキー作るよ」
「.....本当ですか?.....御免なさい.....」
「気にする事はない」
そう話していると。
ルナが、そう言えば、と切り出してきた。
そして俺を見てくる。
不死鳥のメンバーに遭遇したそうですね、と。
俺は!と思いながらルナを見る。
「.....連絡が来ました。.....真帆から」
「.....そうなんだな」
「.....不死鳥って何?」
「色々あって解散したメンバーだ。どうも.....あまり中身が良く無かったらしいが」
「そうなんだね.....」
アイドルって大変なんだね、と眉を顰めて言う花梨。
俺はその姿を見ながら、そうだな。まあ特殊なパターンだったみたいだが、と溜息を吐く。
するとルナが、まあ特殊ですね、と真剣な顔になる。
「.....アイナのお姉さんはまともですけど.....」
「え?アイナさんのお姉さんって不死鳥のメンバーだったの?」
「はい。.....そうですね」
「.....そうなんだね」
そんな会話をしながらしんみりする俺達。
俺は手を叩いた。
それから、まあそんな事よりクッキー食いたいぞ、と花梨に向く。
花梨は、もー。お兄ちゃんのがっつき!、と頬を膨らませる。
その姿に、まあまあ、と言い聞かせる。
「私もクッキーが食べたいです。まともなのが.....私のは炭になってしまったので」
「そうだね。アハハ。大丈夫だよ。私がとっておきを作ってみせる」
「.....やる気満々だな。花梨」
「.....うん。だって.....みんなが居るから」
「そうか」
そして俺達はクッキーが出来るまで待つ事にした。
するとルナが俺に向いてくる。
真帆の家はどうでした?、と、だ。
俺は、良い人達ばかりだったよ、と答える。
それから、ああいう人達に守られている真帆だから真帆が出来たんだな、と笑みを浮かべながらルナを見た。
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