第29話 アイドルという魂

真帆の家で結構話した後。

お土産を大量に持たされた。

時間になったので帰宅の途に着く。


すると、おい、と声を掛けられ。

背後を見ると.....茶髪のいけ好かない感じの女子高生が1人立っていた。

何だコイツは?


「.....何だお前?」


「私は渡(わたり)って言うんだけど。.....山口か」


「.....山口だが。.....何だその態度」


「アンタが嫌いだからさ。.....それで言ってるの」


茶髪な感じで対応がそんなもんだから。

俺は不愉快に感じながらも対応する事にした。

すると渡という女子高生は、私アンタの事嫌いなんだ。進藤を押し上げている気がしてさ、と言ってくる。


「進藤真帆の事か。.....俺は押し上げたりしてない。もしかしてお前は何かのアイドルグループか」


「.....そうだね。私は解散した不死鳥のメンバーだった。だけど.....潰された。.....アンタが好きになっている進藤真帆とかに」


「.....それは実力の差だろ。お前。逆恨みにも程があるぞ。それだけか話は」


「そうだけど。.....何。アンタ知っているの私達の事を」


「正直言うがそんなに分からない。だけど.....お前の言っているのは逆恨みだ。.....お前らの解散理由は知っている」


知っているの、と言ってくる渡。

俺はその姿を見ながら、お前らが自滅したんだろ。解散は、と言う。

すると眉を顰めて、私達はそんな理由で解散したんじゃ無いけど!?、とイラついた様に言ってくる。


俺は、じゃあ何か。別に理由があるなら話せよ。お前の態度が気に入らないんだが、と話す。

そう言うと渡は眉を顰めて俺をまた見てきた。


「私達は逆恨みじゃない。本当に進藤真帆のグループに潰された」


「.....正直言っても良いが真帆がそんな事をするとは思えない。.....お前ら何か勘違いしている」


「じゃあ何か。進藤真帆を信頼出来る点があるの」


「.....俺の彼女だからな」


「.....」


渡はイラついた様なまま俺を見てくる。

そして目を細める。

俺はその姿を見ながら、話は終わったな。じゃあな、と帰ろうとする。


すると背後から、待って!、と声が.....ってかまた別の声だな。

俺は確認の為に見ると。

そこにはもう一人黒の長い髪の年上と思える女性が。

大学生ぐらいか。


「.....アンタの彼女が悪い事をしたってのは知っているんだから。謝って」


「.....アンタらアホなのか?何処にそんな根拠があるんだ」


「私達は.....進藤達と歌のバトルをした際とかもずっとずっとずっとイカサマを喰らったんだから!!!!!」


「それは明らかにお前らの差って事だろ。頑張りが足りないって事だろ。良い加減しないと怒るぞ」


「.....いや。絶対にイカサマだ!」


コイツら.....あわよくば俺の仲間も侮辱しやがった。

俺は怒りに身を任せて踵を返す。

すると、良いのかな?暴力振るったら私達訴えるし、と言う。

その言葉に正気を取り戻した。

そして哀れな目で見ていると、翼くん、と声が。


「.....真帆.....!?」


「.....進藤じゃん」


「.....何やっているの」


「アンタには関係無いでしょ」


「いや。言わせてもらう。.....私の大切な人に何しているの」


「.....私達はムカついたから。アンタに。不死鳥を壊滅に追い込んだアンタを」


私は何もしてない。

そんな事をして恥ずかしくないの?

私に言いなさい。

そういうお仕事の都合は、と言う真帆。

すると舌打ちをした大学生の方。


「.....私達はあくまで5人で必死に必死に必死に頑張っただけ。.....ただそれだけ。.....なのに何か言われる筋合いはない」


「煩い!!!!!許せない!!!!!」


渡が言いながら逆ギレの様に涙を流す。

事務所に切り捨てられたの!

絶対に許さない!!!!!、と絶叫する。

俺はその姿を見ながら心配げに真帆を見る。

真帆は盛大に溜息を吐いてから哀れみの目を向けるのかと思ったが。


「.....正直あなた達を私は良くは思わない。.....だけどまだ変われるチャンスはあるんじゃ無いのかとは思う」


「.....何が残っているって言うの。私達に」


「応援してくれる人達が残っているでしょう。僅かでも。それに.....貴方達はこれから磨けば原石から宝石になるチャンスはある。それを蔑ろにする気なの」


「アンタは努力もしないでそこまでいったんでしょうが!!!!!私達は努力に努力を重ねて.....」


「何処が努力しているの!!!!?馬鹿じゃないの!?」


俺は驚愕しながら真帆を見る。

真帆が絶叫したのだ。

あまりにあり得ないぐらいに。


今まで無かった。

こういう絶叫は、だ。

俺は目をパチクリしながら真帆を見る。


「.....私達の努力を舐めないでくれる?ファン0人から始まったのよ。.....それから.....どれだけ失って.....どれだけこの苦労を積み重ねたと思っているの!?貴方達みたいに楽してないわ!!!!!」


「.....真帆.....」


「.....」


衝撃を受けたというか。

圧巻されながら2人は真帆を見る。

まるで今まで無かった様な胸打たれるかの様な。

そんな感じの様だが。

2人も真帆の絶叫を聞いたのは初めての様だった。


「アンタら.....じゃない。貴方達の事を私達は知っているわ。.....始めから貴方達が金で成り上がったのを。事務所に金を支払ってね!!!!!どの口が苦労したって言っているの!!!!!貴方達は甘過ぎる!!!!!」


「.....」


「.....」


2人は激高に圧巻されながら俯く。

すると真帆は手を伸ばした。

今からでも遅くない。0からスタートしなさい。貴方達、と言う。

もしまだ勇気があるなら私の事務所に来て、と話す。


「はえ!?え!?ま、真帆.....冗談だろ!?」


「.....翼くん。冗談では言わないよ。.....貴方達の事について私の事務所の交渉する。.....貴方達を所属させる様に」


「.....進藤.....」


「.....ど、どうするの。佳苗」


予想外という感じで青ざめる2人。

大学生の様な人は佳苗というらしいな。

俺は納得しながら2人を見る。

すると花苗が、私が敵に拾われる訳無いでしょ!、と怒って渡を引き摺る様に去って行った。

そして俺と真帆だけが残る。


「.....真帆。お前あんな大声が出せるんだな。ってか何でこの場に」


「忘れ物を届けに来たの。.....はい。イヤホン。こんな大声を出す羽目になるって思ってなかったけどねぇ」


「.....」


「.....どうしたの?翼くん」


「.....いや。.....お前はやっぱり何かしらのリーダー格だなって思った」


話しながら俺は苦笑する。

そして俺達は笑みを浮かべていると。

あの、と声がした。

背後を見ると戻って来たのか渡が立っている。

モジモジしながら。


「.....何か用?」


「.....」


渡はその場で深々と頭を下げた。

それから涙を流し始める。

私は.....アイドルがまたやってみたいって思う。

言われて気が付いたんだ、とも。

俺は!と思いながら渡を見る。


「確かにファンの事も忘れていたし.....何よりもアンタの言葉が耳に響いたんだ.....収入が無くても良い。私は0からアイドルがもう一度してみたいって思う」


「.....渡さん.....」


「.....」


私は絶対にもう悪い事はしない。

逆恨みもしない。

だから私を下僕でも良いから事務所でこき使って手伝わせてくれ、と頭を下げたまま言う渡。

真帆は、うん、と言いながら渡を見る。


「研修生からスタートになるとは思うけど」


「.....構わない。.....私は.....アンタ達の好きな様に使ってくれ」


アイドルは金で成り上がるんじゃ無いんだな、と言いながら渡は顔を上げる。

それから真帆と握手をした。

俺は.....その姿を心配げにみていたが。

まあ真帆だから大丈夫か、と思いながら.....納得した。

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