第8話 ピーナッツクッキーと.....愛?
この家はかなりの古さがあった。
壁にひび割れもあるから。
だけど.....この家の事は心から愛しているらしい。
真帆がそう言ったからであるが。
俺はその言葉に笑みを浮かべてから見る。
「私はどんな場所でも生き残れるけど.....この場所は手放したくない」
「.....そうか。.....お前はこの場所が好きなんだな」
「大家さんもお隣の人もみんな優しい。.....家族の様な存在だから」
「.....」
そうなんだな、と答える俺。
すると真帆はエプロン姿のまま動きながら。
うん、と答える。
それから俺に笑みを浮かべた。
俺はその姿に柔和になる。
「何だか翼くんの為なら何でも出来そう。今日は」
「.....おい。マジに誤解を生むから」
「そうだけどね。.....アハハ。あ。花梨ちゃんのお菓子美味しかった。お土産に持たせてくれたの」
「.....そうか。良かった。美味しかったなら」
お料理上手だね花梨ちゃん、と言ってくる真帆。
俺は、まあ昔からな。親が居ない時によくアイツが作っていたんだ。ご飯とかな、と言いながら俺は笑みを浮かべる。
そうなんだ。翼くんは?、と問うてくる真帆。
「俺は苦手だな。.....作れない。家事は出来るけどな」
「私と一緒ならへっちゃらって事だね。プラスプラスだし」
「.....オイ.....恥ずかしいって」
「.....私は本気だから。翼くんに好かれるなら何でもする」
「お前.....」
私は翼くんを.....生涯の伴侶と思ってる。
だから愛している、と笑顔を浮かべる真帆。
どんだけ重いねん。
生涯の伴侶っておま.....。
俺は真っ赤になっていると真帆が乗り出した。
「えい」
「.....!?」
そして俺の口に冷たい何かを投げ入れる。
俺は?!と思いながら噛み砕く。
それは.....ピーナッツの味がしたのだ.....が?
何だこれは?
「特製のピーナッツクッキーです。冷ましておりました」
「.....ああ.....そうなのか。美味しいな」
「うん。愛の愛情たっぷりだよ」
「言っていて恥ずかしくないか?お前さん」
「私は何も恥ずかしくない。君なら素を曝け出せるから」
「.....」
恥ずかしいセリフばっかりだな.....。
俺は赤くなりながら窓から外を見る。
日差しが柔らかく差し込んでいる良い角度だ。
そうしていると、あ。焼けましたー、と真帆がニコッとした。
「紅茶淹れるからね」
「いや。そこまで至れり尽くせりなのは.....」
「良いから。今日はお客さん。いつかは旦那さん」
「.....おま.....」
何この子!恥ずかしい!
思いながら俺は顔を覆う。
そうしていると俺の目の前に無数のピーナッツクッキーが置かれる。
それから俺の横の椅子に肩を寄せて腰掛けてくる.....真帆。
何やってんだ!?!?!
「ま、真帆!?」
「召し上がって下され」
「.....お前な.....急接近止めて?マジに恥ずかしいから」
「だって翼くんって目を逸らすじゃん。私から恥ずかしくなったら直ぐに」
「.....そりゃそうだろ.....お前。メッチャ美少女だし」
「そうかぁ。.....でももうどうでも良いけどね。美少女なんて。一人に可愛いって言われたらもうどうでも良い。だからこっち向いて?」
それは俺の事だろう。
何だってこんなメチャクチャ.....。
俺は赤くなってしまう。
だがその顔を逸らそうとして俺の頬を掴んで無理矢理.....自らの顔に向かせた。
真帆はジッと俺を見る。
「.....お、おい!マジに恥ずかしい!」
「もう本当に、きす、でも出来そうだね。これ」
「やめーい!!!!!」
俺は大慌てで離れる。
そしてピーナッツクッキーの乗せた皿の乗っている机に足が当たって床に勢い良く散らばる。
俺は赤くなったまま真帆を見つめる。
真帆はジッと俺を見たままである。
まるで新婚の夫婦の様な。
「もしだけど。このままキスするって言ったらどうする?」
「.....そ、それは今じゃないと思う」
「.....それはどういう意味?」
「今それをするべきじゃない。俺達はまだ知り合って浅いんだぞ」
「ふむ。そう仰られるのですね」
「そうだ。だから駄目だって」
じゃあいつか私がキスしたいって言ったらしてくれるかな、と言ってくる真帆。
真剣な眼差しで俺を見ている。
俺は赤くなりながらも、そうだな、と返事をする。
その言葉に途切れ途切れに返事をする。
「.....俺はお前を好きになったら一緒にラブしたいって思う。だけど今は違うと思うから」
「アハハ。翼くんは私のテストには合格だね」
「.....ご、合格?」
「.....キスするって言ったら.....キスしようってなるのが男の子。.....だけどそれをしなかった。こんな美少女でも。.....それは私の事を大切に思っている証拠だよ。だから安心した。これで心から安心だね」
「.....いやいきなりテストってお前な.....」
俺は額に手を添えながら盛大に溜息を吐いて、揶揄うなって、と言うが。
真帆はニコッとしたまま何も言わなかった。
それから、床に落ちちゃったけど.....残った分を食べようか、と話してくる。
俺は、ああ、と曖昧ながらも返事をして、今から紅茶淹れるね、と真帆は離れる。
その耳がそっぽを見る時にかなり赤くなっているのに気が付いた。
いやお前。
恥ずかしいならするなよこういう真似を。
考えながら俺は息を吐く。
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