2、幸せな下に

仲間達との絆

第16話 過去の初恋と今の初恋

俺、山口翼にはとても大切な初恋の人が居た。

彼女の名前は栗谷泉という。

生涯で唯一俺が振られた大切な女の子。

幼馴染であった存在。


何故俺を振ったのか。

振られた当時は小学生の低学年。

何故振られたのか当時は全く分からなかった。


悲しかった。

だけど.....泉が亡くなってから俺は全てを理解する。

そうか泉は.....


『俺を大切にしていたからこそ愛を振った』


のだと。

全てを理解した時。

俺はその事を知って鼻水もぶち撒けて号泣した。

悲しかったとしか言いようが無い。


泉の葬儀の時に.....俺は.....涙が止まらなくなってしまって前が見れなくなった。

そして俺は今に至っている。

真帆という彼女が出来て.....俺は泉と向き合っている。

自室にて俺は泉に報告して手を合わせていた。


「泉。.....色々あったけど無事に彼女が出来た。お前ならきっと柔和に歓迎するだろうけど。悲しんだりもするかもだし報告しておくからな。まあ大人なお前にそれは無いと思うが」


そんな事を呟きながら俺は涙を浮かべる。

そして目の前を見ていた。

泉がこの世から病気で亡くなった時。


俺は絶望でこの世から消えたくなった。

それぐらい愛しい、愛していたのだ。

病院の病室でこんな会話をした事がある。


『ねえねえ。翼。.....私ね。貴方の翼という名前が本当に好きなんだ。何処までも過去も現在も未来も飛んでいける。そんな気がしてね』


『そうかぁ?なんか俺は翼って名前があまりに単純な気がするんだが?俺は嫌いかもだぞ?』


『いや。単純じゃないよ。翼って名前はね。おばさんにとっても私にとっても宝物の名前なんだ。永遠に.....』


『.....?』


そんな感じのとある日の涼やかな風が吹いている中の会話を思い出す。

赤くなっている泉。

あの時。


俺は何も理解しないクソガキだった。

だけど俺は理解して.....今を見ているのだが。

それはきっと、俺が大好きだ、って照れ隠しの意味だったんだ、と。


「泉。お前が生きていたらどう思っていたんだろうな。.....俺はお前が好きだ。.....だけど今は真帆が好きだ。.....生きていたらさぞ大変だったろうな」


俺は涙を浮かべながら一筋だけ涙を流す。

それから目の前の10年ぐらい前の幼い幼馴染の微笑む顔を撫でる。

泉の代わりに俺が死んでからそして絶望を乗り越えれればと思っていた。


でも思う。

泉は俺の命を守ってくれたんだ、と。

真帆との巡り会わせの為に守ってくれたんだ、と、だ。


「.....世話になってばかりだな。本当に大人だったよなお前」


呟きながら俺は涙を拭う。

それから笑みを浮かべながら天井を見上げる。

電気を見ながら.....考える。

そして前を見た。


「.....大切な人が守ってくれたんだ。その分を大切にして.....そして生きないとな。.....もうちょっと待ってくれな。お前に会うの。.....死んでからまた紹介するから。俺の生涯の伴侶を.....」


そして俺は写真立てから離れる。

それから俺は廊下に出てみる。

すると目の前に真剣な顔の花梨が立っている。

俺はその姿を見ながら、どうした?、と聞くと。

ゴメン。部屋に居るかなって思ったけど。半分盗み聞きした、と言ってくる。


「お兄ちゃん。お兄ちゃんは.....お兄ちゃんとして生きてね」


「.....お前.....」


「泉お姉ちゃんは.....きっと幸せを願っているから。絶対に」


「.....そうだな」


「うん。真帆さんもきっと願っていると思う。全てをね」


真帆は良い娘だ。

だからこそ.....俺は真帆を真帆個人として見たい。

俺は泉と重ねてしまっては駄目だ、と思う。

だけど真帆は言った。

私の事は大切にして欲しいけどゆっくりで良いから、と。


「.....優しいよな。恵まれている俺は」


「泣かないで。お兄ちゃん」


涙を浮かべているとそう言われた。

だけど直ぐに俺は涙を拭う。

それから前を見た。

そして笑みを浮かべる。


「.....男なのにな。全く。でも.....もう泣かないと決めたから。もう泣かないさ」


「.....お兄ちゃん.....」


「俺はアイツの分までしっかり生きる。そして渡された分を.....生かす。俺は.....全てを真っ直ぐに見る」


「.....その意気.....と言いたいけど。間違いだよお兄ちゃん」


言いながら俺を見てくる花梨。

そして、泉お姉ちゃんはそんなの望んで無いよ、と。

どういう意味だ、と思ったが。

答えは直ぐに出た。


「泉お姉ちゃんは.....泣いても良いって言うよ。こういう時には。絶対にね」


「.....!」


「.....お兄ちゃん。人間は泣く事で生きているんだよ。人間ってのが産まれた時からずっと。だから泣いて良いんだよ。必要な時にはね」


「.....花梨.....」


「私はそう思うから」


花梨は笑顔を浮かべながら俺を見てくる。

そしてニコッとした。

俺はその姿に見開いてしまう。


そうか。

俺は.....泣いても良いのか、と。

納得しながら。


「.....で。それはそうだけど本来の目的だけど。.....お兄ちゃん。今日のお夕飯はどうしようか?」


「ナポリタンが食いたいかもな。.....アイツが.....好きだったしな」


「そうだね。泉お姉ちゃん好きだったもんね.....じゃあ分かった。作るよ」


「.....ああ。頼む」


そして踵を返して去ろうとするその背中に、なあ。花梨、と言う。

それから、ん?、と向いてくる妹に。

サンキューな、と告げた。

花梨は、何それ?アハハ、と言いながら笑みを浮かべる。


「.....花梨。お前が妹で良かった」


「私はお兄ちゃんが兄で良かった」


それから俺たちはクスクスと笑う。

そしてそのままリビングに向かってから。

電気を点けて回ったり家事をしたりし始める。

夜が来る、と思いながら。

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