第41話 とある出会い(2)〜7年前の空〜
真帆と一緒に芋ラテを飲んでから。
暫く手を繋いで空を見上げていると、おや、と声がしてきた。
俺達は顔を上げてから確認する。
それは車椅子に乗った優しげな青年だった。
俺達と同年齢ぐらいか.....と思う。
何か.....足が痩せ細っている。
誰だろうか。
「!.....長野くん.....!」
「え?真帆。彼と知り合いか?」
「うん。知り合い。.....言い辛いけど私の7年前の恋人だった人だよ」
「ああ.....成程な。そうなんだな」
この人はその。あまり見せたくなかった、という感じの顔をする真帆。
俺はその姿を見ながら、大丈夫だ。真帆、と目配せをしてそれから長野という青年を見てみる。
長野は少しだけ申し訳無さそうな顔で控えめに笑みを浮かべていた。
俺は立ち上がってから膝を曲げる。
そして手を握る。
「俺は山口翼だ。.....アンタは真帆の元彼なんだな?」
「そうですね。.....僕は長野潤(ながのじゅん)。まあ元彼です。.....真帆さんとは色々な行き違いで別れました」
「そうなのか.....?」
「真帆さんは仕事で忙しい。僕は脊髄の病になって忙しかった。だから互いに了解して別れました」
「!」
俺は驚きながら長野を見る。
長野は俺を見ながらそして真帆を確認する様に見る。
また素敵な彼氏さんを見つけたんだね。真帆、と。
俺はその姿を見ながら、彼は脊髄の病なのか?、と聞く。
真帆は、そう。それで彼が別れてほしいって言ったの。僕の都合に合わせる訳にはいかないって。それから引っ越しもあった。だから私達はそのまま別れたの、と言って涙を浮かべる。
そして真帆は長野を見る。
「嬉しい。こうして再会出来たのが」
「そうだね。真帆。久々だ」
その言葉を聞くなり真帆は困惑する。
だけど何かを決意した様に長野に力強く向いた。
そして、私.....その。ゴメン。裏切るような真似で。長野くん。今はこの人と付き合っているの、と言う。
すると長野は、知ってる。その人は君にとって大切な人だって思える人だと思う、と笑顔で話した。
俺は!と長野を見る。
「全然構わない。時間も経ったからね。幸せになっているならそれで良い。僕の事はもう忘れてくれ。真帆」
「そんな。.....絶対に忘れないよ。私」
「真帆。駄目だよ。他の大切な人と付き合っているんだ。僕の事は忘れないと。そういう気持ちでは駄目だ」
そんな感じで話し合う2人。
意見が合致しない。
俺はその姿を見ながら真帆を見る。
そして切り出した。
「真帆」
と、だ。
真帆は、何?、と俺を見る。
長野は?を浮かべて俺を見た。
そんな2人に、話さないか。せっかくこうして再会したしな、と言う。
真帆も長野もビックリしながら俺を見る。
そして眉を顰める長野。
「それは.....しかし.....」
「俺は.....何とも言えないけどアンタを心から信頼している。身体に触らない程度にまた真帆と是非話してほしい。真帆の事も信頼しているしな」
「.....やれやれ。君は不思議な人だな。翼くん、だっけか」
「不思議とかじゃない。当たり前の事をしているだけだよ。俺はな」
か細い腕で涙を拭う長野。
俺は長野を見据える。
すると長野はこう言ってきた。
君なら信頼出来る。
僕の代わりに彼女を幸せにしてくれるだろう、と。
「俺にそんな価値はあるかな」
「心配しなくても君なら大丈夫だ。いつ死ぬかも.....分からない僕に比べればね」
「.....まだ大丈夫じゃないのか?」
「僕は脊髄に生涯、影響を残す病を患っている。だから彼女を幸せにする事は出来ない。君は元気だからね。君なら彼女を任せられる。宜しくね。翼」
「.....長野潤だったな?.....なら潤か。分かった」
俺達は握手し合う。
それから笑顔を浮かべ合う。
そして潤は、じゃあ早速だけど僕達が話をする場としてとても相応しい場所があるんだ。指定しても良いかな、と言う潤。
俺は、任せる、と一任しながら潤を見る。
「それにしても幸せそうで良かった。僕は幸せ者だね」
「長野くん.....」
「今日は出て来て良かった。街にね」
「潤。有難うな。そう言ってもらえて光栄だよ」
そうだな、と言う潤。
俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。
それから柔和になった。
そして潤はそのまま周りを見渡して自動車椅子を動かす。
そうしてから案内してくれた。
小洒落たカフェがある。
「この町で僕の親父がやっているカフェだ」
「.....ああ。そうなのか」
「そうなんだ。この辺りに引っ越して来たんだね」
「海辺町はいい町だ。僕の居場所にふさわしいから」
「.....今はどうやって過ごしているんだ」
「絵を描いているんだ。.....パレットに絵の具を付けて.....キャンバスにね。楽しいよ」
そして車椅子を動かしながらそのままスロープを上る。
それから店内に入ると.....丸メガネの中年の男性が立っていた。
俺達を見ながらかなり驚愕している。
その人達はまさか、と言いながら。
「真帆さんと彼氏さんだ。今の。.....親父。コーヒー用意してくれないか」
「.....そうか。.....噂の彼氏さんと真帆さん。.....久々だな。真帆さん」
「お久しぶりです。琢朗さん」
「.....ああ」
そうか真帆とこの男性は知り合いか.....、と思う。
というか俺の噂って何処まで広がっているのか。
逆にそっちの方が興味があるのだが。
考えながら俺は苦笑いを浮かべていると.....男性が近づいて来た。
「.....真帆さんを幸せにしてくれ。是非とも。近所付き合いの感じだったんだ。昔は。.....だからこそ.....な」
「.....!」
「.....息子も願っているから。あなた方の幸せを」
「有難う御座います」
いやいや親父!恥ずかしいからな!そんな俺の思いを見透かした様な言葉を!、と言う潤が慌てる。
俺はその姿を見ながら笑った。
そして店内を案内される。
特等席に案内された。
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