第56話:戴冠式
街中は絢爛に装飾され、花吹雪が舞う。
今のティファレト国はその名に恥じぬ美に彩られていた。
大広場には巨大な祭場が出来上がっており、荘厳な音楽と共に王の装束を身に纏ったユーエルがタイロックとキリエを従えて階段を登る。
その様子を大勢の国民と10の国の王とその王子、姫が見守っている。
壇上に上ったユーエルが跪き、ケテル王朝の王から王冠が授けられ、ユーエルは振り返り国民へ手を振る。
新たなる王の誕生を祝福し、万雷の拍手が響き渡る。
空には花火も打ち上げられ、ティファレト国は喜びに包まれていた。
ショウはその様子を城のテラスにある席からひとり眺めていた。
「ここにいましたか」
そんなショウのもとへと3人分の足音が聞こえてきた。
元許婚であるメレク、その後ろに侍女服を着た元リスタート教団のアルフ、そしてその更に背中にライラ一族の少女であった。
「懐かしいですね、初めてお会いしたのはここでしたでしょうか」
そう言ってメレクがショウの返事を聞かずにそのまま反対側の席に座る。
ショウが無言のまま目を向けて抗議しようとしたが、少女と目が合ってしまい、少女は怯えてアルフの後ろに隠れてしまった。
「ちょっと、怖がらせないでくれるかしら」
「俺ァ何もしてねぇし言ってねぇだろうが!」
アルフの抗議に真っ向から意見し、その大きな声のせいで少女はさらに萎縮してしまった
メレクはそんな様子を微笑みながら語りかける。
「あんなことがあったんですもの、怖がるのも無理ありませんわ」
しばしの沈黙。
その沈黙はショウにとっての傷であったからこそ、メレクはショウが喋るまで待った。
「チートがあれば何でもできると思っていた。 だが実際は欲しいもんは何も手に入らず、いらねぇことばっかりやらかした。 だってのに、親父殿は最期に俺のことを誇りだと言った。……意味が分かんねぇ」
そう言いながらショウは遠くを見ている。
それはここにはいない誰かを見ているようであった。
まるで吹けば飛ぶような儚さを感じ、メレクはテーブルの上のショウの手に自分の手を重ねた。
「私には分かりますよ」
「アァ? お前が俺の何を知ってんだよ」
「ここから飛び降りた女の子を助ける為に一緒に飛び降りるくらい優しいって。 多分、ショウ様のお父様もそう言いたかったんだと思います」
「…………ケッ」
ショウがそっぽを向き、メレク達はそんなショウを見てクスクスと笑う。
ふと、ショウの視界に城の庭園に刺さっている2本の剣が入った。
その剣の周囲を、紫色と青色の小さな妖精がまるで踊るように舞っているのが見えた。
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