第2話:奴隷売買
「そうだ、奴隷を買えばいいんじゃねぇか」
ある昼下がりの午後、クソみてぇな先人の負の遺産……特許について学んでいる最中、ふと思いついたことが口から出てしまった。
「ショウ王子、この国において奴隷の売買は違法ですよ」
「それくらいは分かってるよ先生。そう、この国では違法だけどよ、ゲブラー帝国じゃ合法だろ?」
このナーロッパ世界のセフィロト大陸には11の国がある。
その中でもゲブラー帝国は軍国主義の色が強く、一部の人間は奴隷として出荷されるとかなんとか。
といってもそれはあくまで救済措置としての面もある。
要はゲブラー帝国での生き方が合わずそのまま死ぬよりかは、他の国に送った方が双方にとって都合がいいというものだ。
「だからゲブラー帝国で奴隷を買い、それをここに連れて来る。奴隷が入国すること、そして暮らすことはこの国じゃあ違法にならないからな」
「それは問題ありませんが、そもそもどうして奴隷を買ってどうするおつもりなのですか?」
異世界転生といえば奴隷ヒロインを買うのがお約束だから……とは流石に言えない。
いや、王子の身分だから言っても止められはしないだろうが、頭がおかしい奴みたいに見られたくない。
「話し相手が欲しいだけだよ、今は先生くらいしか相手がいねぇからな」
「確かに、コミュニケーションは勉強で身につくものではありませんからね。いやぁ、ショウ王子は色々なことに意欲的で、私も教師として身が引き締まる思いです」
……まぁ、今まで散々思い通りにいかなかったんだから、これくらいは別にいいだろ。
そうしてシール先生を味方につけた俺はショウ14世、親父殿へ奴隷購入を直談判し、許可を貰うことに成功した。
「ただし、ちゃんと最後まで面倒を見ること。いいね?」
「奴隷はペットじゃねぇんだぞ」
「うんうん、シュウはちゃんと分かっていて安心だ。あぁ、けど奴隷は代理人に都合をつけさせよう。流石にお前が直接出向くのは安全面でも問題がある」
別に山賊や魔物どころかゲブラー帝国の精鋭騎士と戦っても圧勝できるのだが、ここで駄々をこねて奴隷育成計画を白紙にされるわけにはいかないので、大人しく任せることにした。
そして一ヵ月後、それが大きな間違いであったことを後悔した。
今、俺の部屋には2匹の奴隷がいる。
一匹は虎のような容貌で、綺麗な毛並みでありながらも角と牙が折られた小さな獣人。
そしてもう一匹は長い黒髪に、後ろから千切れた尻尾が見える子供。
「どちらも珍しい種族ですね。片方はサベージのアルビノ、もう一人は私でも分からない」
先生が興味深そうに頷いているが、そこら辺はどうでもいい。
重要なのは―――。
「なんで両方男なんだよ!」
「最低限王子の盾となるだけの力を持ち、歳が近い女子の奴隷がいないからでしょう」
ふざけんなよ、俺ぁ奴隷ヒロインが欲しかったんだ。
肉の壁なんざ要らねぇんだよ!
「おや、どちらも希少な種族で自慢できるものかと思いますが、不満でしたか?」
「ペットじゃねぇんだからそんなんクソどうでもいいわ!」
その言葉を聞き、二匹の奴隷の目が見開かれた。
珍しい種族であることを誇りに思っていたが、俺がそんなことを一切気にしていないことに驚いたのだろう。
「ちなみに先生、これ返品とかできんのか?」
「そうですね、返品自体は可能でしょう。しかし、彼らはゲブラー帝国で生きていけないからこそ奴隷になったのです。送り返されたとしたら問題のある奴隷というレッテルを貼られてしまい……」
買い手がつかず、そのまま死ぬことも考えられるということだろう。
あぁもう、面倒くせぇな!
親父殿にも最後まで面倒を見るって約束までしたんだ、それなら相応に扱ってやる。
「上等だ、今日からお前らは俺の奴隷だ! 俺が死ぬまでこき使ってやるから覚悟しやがれ!!」
死ぬまで酷使するという宣言をしたというのに、何故か先生は嬉しそうな顔をし、奴隷達なんかは驚きすぎて呆けてしまっていた。
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