第33話:密輸人
襲撃を乗り越えたあと、執事のオッサンに小さな屋敷に案内されてそこで休息していた。
俺は平気だったのだが、キリエとクソ女は中々に消耗したらしい。
「鍛え方足りてねぇぞテメェら」
「も、申し訳ありませんショウ様ぁ」
「チート持ちと一緒にしないでほしいんだけど」
「ったく、ウチのタイロックを見ろ。 短時間で首を獲って来たってのにこうやって立って護衛をやってるっつーのによぉ」
壁際には泰然自若に腕を組むタイロックがいた。
やはり純粋なフィジカルでいえばこいつは中々のもんだ。
「……グルル………プシュルルルルゥ……」
こいつ、喉を鳴らしながら立って寝てやがる。
もう猫だろこれ。
「まぁ白いドラ猫は置いといてだ、この国が襲われたのはなんでだ?」
ティファレト国なら分かる、親父殿の仇討ちをしそうだからな。
だがわざわざ厄介になりそうな他の国にまでちょっかいかける理由が分からん。
「端的に言ってしまえば混乱を起こすこと、そのものが目的よ」
「今まさに追ってる俺らはともかく、何もねえ国でテロ起こしたら逆に追っ手が増えて面倒になるだろうが」
「別にいいのよ、時間さえ稼げれば。 先ずティファレト国で暗殺騒ぎを起こして動きを止める、次に他の国でも問題を起こして混乱させる、そうすると次は自分の国でも問題が起こるかもしれないと他国が思う、日付を少しずつ遅らせて襲撃すれば―――」
「問題が起きてない国は襲撃があるまで身動きがとれなくなるってことか」
起こることが分かっているからこそ、それに備えにゃならねえからな。
少なくとも皆で仲良くお手手を繋いでってのは無理だろう。
「ティファレト国が火葬なんかしなきゃ墓所に潜り込んで勝手に首を持ってくから、こんな大規模な陽動や暗殺も必要なかったんだけど……だからこそ、裏で何が起きているのかがバレたってのも皮肉なものね」
「そんで俺が来ることになったと、マヌケにもほどがあるぜ」
結局、何の進展もないままその日は終わってしまった。
そして優雅な朝食の最中、執事のオッサンが申し訳なさそうな顔をしながら説明する。
「―――というわけでして、昨日の襲撃により飛行船が破損。 船も一部が破壊されており、補修や点検だけでも数週間はかかる見込みとのことです」
「クソが、やられたな」
無差別に船を襲ったってことは、リスタート教団の奴らとっくに自前の船で向こうに渡っちまったってわけだ。
「それともうひとつ。 ノーア王並びに御当主様よりから今回の件についての感謝を込めて、是非とも晩餐会にご招待したいとの言伝を預かっております」
「俺がまだ王子だったら王族の務めとして出席したが、今の俺ァただのショウだ。 今回の襲撃についてもマルクト王朝側の手柄ってことにしといてくれ」
「かしこまりました。 しかし、本当によろしいのでしょうか」
あぁ、せっかく誘ったのに断ってしかも面倒ごとも投げたから面子を潰して変な介入があるかもしれねぇってことか?
「おい女ァ! キリエをつけてやるからここで他の国の襲撃予定とか何のチート持ちがいるかの情報まとめてオッサンに渡してやれ」
「別にいいけど、全部知ってるわけじゃないわよ」
「そこまでテメェには期待してねぇよ、少しでも被害が減りゃ御の字だ」
こいつを利用しようにもほとんど役に立たねぇしな、こういうところで働かせにゃ連れて来た意味がねえ。
「ところでアンタはどうすんのよ、一日ブラブラと観光でもしてるわけ?」
「そんな時間を無駄にするようなこたぁしねぇよ、足調達してくるから大人しく待ってろ」
そうして屋敷を出て街で情報収集を開始する。
普通の乗り物じゃセフィロト大陸とクリフォト大陸の間に発生している異常気象に阻まれて沈む。
だからそれなりの物かつ俺らでも利用できるものが必要なんだが、まぁない。
製造関連のチートでも持ってれば戦艦なり飛行機なりを作っただろう、テイマー関連のチートがあれば嵐を乗り越えるだけの強さをもった魔物に乗ればいいだろう。
だが俺にそんなものはない。
過去の異世界転生者が作った超技術の乗り物は……期待するだけ無駄か。
いや、ワンチャンダンジョンの最下層にそういうのが眠ってる可能性があるか?
つっても本当にあるのか、あっても何処にあるのかが分からなきゃ意味ねえ。
念のために冒険者ギルドってとこでも情報を集めたが収穫はなし。
ついでにギルド登録してSランク冒険者でも名乗ろうかと思ったが今は遊んでる時間がねえから後回しにする。
「さ~て、どうしたもんかな」
ギルド内のテーブルに足を乗せて天井を眺めていると、足音がひとつ近づいてきたのでそちらを向く。
「あんちゃん、船を探してるって話だがなにするつもりだい?」
軽鎧に槍を携えたオッサンが話しかけてきたので適当に答える。
「クリフォト大陸に用があんだよ、悪ぃか」
「国から定期的な大規模調査ってことで何度か大勢で向かったことあるが、変なもんしかねぇぞ?」
「別になんでもいいだろ、用がないなら酒でも飲んでろ」
あしらうように手の平で追い払おうジェスチャーをするが、そのオッサンは声を潜めて話を続けた。
「実はな、あっちの大陸の植物がたまーに市場に流れてんだよ。 最初調査隊の誰かが小遣い稼ぎの為に流してんのかと思ったが、それにしては流れてくる頻度が多い」
「アァ? それがどうしたよ」
「おれらの知らねぇ方法で向こうと行き来する方法があって、それを使ってあっちのもんを仕入れてると睨んでる」
「へぇ……で、その仕入れをやってる奴ぁ誰だ?」
だがオッサンは両手を挙げて知らないとジェスチャーする。
「そこまで言ったんなら知っとけよ!……いや、それでも有意義な話だった、受け取れ」
俺はオッサンに金貨1枚を投げよこし、冒険者ギルドから出た。
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