第34話:海族
密輸品といえば裏路地。
クリフォト大陸の品が禁制品とは限らないが、それでも表立って売られてないということはそういった場所にあるものだ。
裏路地に足を踏み入れるとまぁいるわいるわ、怪しい煙を吸ってトリップしてる奴にカードに興じてる奴ら。
「ハァ~たまんねぇ……やっぱ香木はあっち産のがキクぜぇ」
ヤベー煙吸ってるかと思ったらただの香木かよ、昔の公家がやってるような趣味を裏路地でやるんじゃねぇよ。
「ヘッヘッ、にいちゃんもカードやるかい? 誰が一番かっこよく切れるか勝負してんだ」
「ギャンブルしろよテメェら」
もしかしてだが、あの香木のせいで知能が低くなってるとかねぇだろうな。
「んなことより、クリフォト大陸のもんを密輸してる奴を捜してんだが何処にいるか知ってっか?」
「あぁ、しばらく見なかったが最近帰って来たぜ。 ほれ、あそこにいるぞ」
チンピラが指差すと、そこには一際綺麗な服を着ている、この場所において最も怪しい男がいた。
「ゲェッ、王子!?」
「アァン!?」
男がこちらに気付いた瞬間に逃げようとしたので即座に頭を掴む。
「テメェ、俺を知ってんのか」
「それ、避難民、リーダー、」
「あぁ、アイツか!」
タイロックが言った通り、そいつは確かに俺が元スラム街まで誘導した避難民をまとめてた奴だった。
「おい、お前には金貨を渡して避難民の面倒見るように言ってたよな? ここにいるってことたぁつまり―――」
「いやいや違うんでゲス王子! ラーメンとチューカメンくらい違うゲス!」
「確かにそりゃあ違うな……ってそんなこたぁお前のとってつけた語尾くらいどうでもいいわ! お前、まさかここまで逃げてきたのか?」
「いえ、ちゃんとあの金は避難民に分配しましたよ! 正確には各グループごとのまとめ役に預けました! だって私ひとりで全員分を管理なんて無理でしょう!?」
まぁざっと1000人もいたんだからそうだな。
「いや、それでも速ぇな」
「フフッ、まぁ人に丸投げするのだけは得意なもんで」
それはそれでひとつの才能だわな。
「それよりもテメェ、クリフォト大陸の品を仕入れてんだってな?」
俺はそいつの手を無理やり開かせ、金貨を握らせる。
「金を受け取ったな? それじゃあ一仕事してもらおうか」
「いやぁぁああああ! まだ死にたくなぁぁあああいいっ!!」
俺は泣き叫びながら暴れる密売人の男をガッシリと捕まえ、屋敷まで引き摺って行く。
そして客室での尋問を始めた。
「海上と違って実は海底は穏やかで、あっちの大陸まで直通の海流があるんすよ」
「それじゃあ潜水艦で移動でもすんのか?」
「いやいや、中に入れるくらいデケェ浮き輪を使って、海族の奴らに運んでもらうんすよ」
「海族だァ?」
ウチのタイロックみたいなサベージ種みたいな獣人系は知ってるが、海族というのは聞いたことがない。
「海族っていうのは水中、水上でしか生きられない種族の総称よ。 クリフォト大陸でしか使わない言葉だけどね」
頭をひねっていたら、女が勝手に説明した。
ティファレト国は大陸のど真ん中で海とは縁が無い。
だからそういう種族のことはてんで分からん。
「もしかしてだが、あっちの大陸にはそういうのばっかいるのか?」
「そもそも血が混ざりすぎてて人種って言葉があってないようなものよ」
「どういう意味だそりゃ?」
女はこれが答えだと言うかのように横紙をかき上げて耳を露出させる。
「アルフの場合はエルフの他にも色々な血が混ざってる、だからエルフ耳どころか欠けてたりするの。 他にもみんな肌の色が違ったり角があったりなかったり……統一種族がいないせいで、宗教でしか結束できないのよ」
「その宗教でも洗脳してるがな」
「だから救われない、見捨てられた土地なの」
「ケッ、そんならそんなとこさっさと見捨てちまえ。 住む場所ならこっちにいくらでもあんだろ、なんならウチの国でも腐るほどあるぞ」
「新参者は争いを呼ぶわよ」
「そいつぁいいな、大歓迎だ」
スラム街に殴りこむんじゃなくて、最初からあっちの大陸の奴らをこっちに呼び寄せときゃよかったな。
そうすりゃあ、俺もガラでもねえことをするハメにならなかったのによ。
そんなことを考えていたら女が驚いた顔をしてこちらを見ている。
「なんだよ、そのツラは」
「いえ、なんでも。……ただ、もっと早くアナタと出会えてたら、違ってたんだろうなって思っただけよ」
「早かろうと遅かろうと、俺の身内に手ぇ出したんなら変わんねぇよ」
そうして打ち合わせをした翌日、人気の無い海岸線に集合して遂に出発の日時となった。
「ふんぐるむんぐる!」
そして密売人の男がイカレたらしく、意味不明な呪文を叫びながら奇怪な踊りを披露している。
「ここで殺してやるのが情けってもんか」
「待って違う王子これが合図なのお願い信じてください!」
その言葉は本当だったらしく、数分後に海から海族の奴らが顔を出してきた。
数分間ずっとイカレたフリをしてた男に少しだけ同情した。
軟体だったり変な甲羅があったりする海族の連中に、浮き輪代わりの改造した気球のバルーンを渡す。
この中に入れば道中は窮屈な思いをせずに済む。
海族には言葉が通じないらしく、男が身振り手振りで通訳している。
やってることは正しいことなんだが、先ほどまでの振る舞いのせいで可哀想な奴にしか見えなくなってきた。
ちょっとくらい報酬奮発してやってもいいかもしれねぇな
「ショウ様、こちらさる御方からでございます」
執事のオッサンが大仰な包みから一本の剣を取り出し、俺に手渡す。
「なんだこりゃ?」
「異世界転生者が現れる前のお話、勇者遍歴記という書物にて、クリフォト大陸には魔王と呼ばれる者がいたそうです。 そしてその剣はその魔王を倒したことのある聖剣だとか」
「随分とまぁお約束だな」
俺は剣を鞘から抜き眺めてみる。
何の変哲もない、ただの剣にしか見えない。
「……これが聖剣? 偽物じゃねぇの?」
「ええ、過去の異世界転生者が製造した武器の方が遥かに性能が高いですからね。 それでも何かあるかもしれませんので、念のためにとのことです」
別に俺のチートだけでも大丈夫だと思うが、それでも聖剣って響きはちょっと心が疼く。
「おうじー! 交渉成立ですー! 行きますよー!」
ずっとボディランゲージをしていたせいか、汗だくになった男がこちらに手を振るのが見えた。
「オウ、それじゃあ行って来る。 土産は期待しんなよ」
「朗報をお持ち帰りになること、心よりお待ち致します」
そうして俺たちはバルーンへと入り、遂にクリフォト大陸へと向かう海流に乗り込むのであった。
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