第32話:暴風地帯

 先ず巣作りしようとしてる鳥型の魔物を剣で追い払い、馬車の上に立つ。

 周囲のあちこちから悲鳴があがってる、どうやら俺だけを狙ったものじゃねえらしい。


 上空を旋回していた鳥の群れが集まりだし、黒い点となって急降下してくる。

 それを俺とタイロックの攻撃の風圧で弾き飛ばすが、他の奴らへの攻撃までは防げねえ。

 無事な奴らはすぐに建物へと逃げ込んだが、そうじゃねぇ奴らは傷だらけになりながら必死に地面に這い蹲ってる。


 こういう時、定番の作戦といえばテイマーのチート持ちを倒すことだろうが、居場所が分からん。

 どうしたもんかと考えていたら執事のオッサンも鞭を振るいながら屋根に上ってきた。

 バトラーってそういう意味じゃねぇだろと思ったが、これも文化汚染の一種かもしれねぇな


「危険でございます、スグに頑丈な建物へと避難いたしましょう」

「アァ? こんなんで俺が殺せるかよ。 俺を殺してぇなら竜種をグロス単位で……おいタイロック! 敵の鳴き声の種類を言え!」

「ム………悲鳴、多い、鳥、沢山、ほか、ない」


 さっきから襲ってくる魔物は鳥型しか見ていない。

 竜種はともかくフェンリル種みてぇのがいねえならやりようはあるってもんだ。


≪遍く地と天より今こそ我が手に従え≫

≪世界に駆け巡りし其の名は旋風≫

≪空にてたゆたう者共をいざ逆巻け、渦巻け、集え≫


 呪文の詠唱を始めると周囲の風が吹きすさみ、掲げる俺の手へと集まっていく。


「ショウ様! このようなところで天候呪文などを使っては―――」

「天候呪文じゃねぇよ、よく見ろ」


 建物の隙間風によってビュウビュウと轟音がかき鳴らされ、それに引き寄せられるかのように鳥型の魔物も俺の頭上へと吸い込まれていき、大きな風の球体が出来上がっていく。


「こ、これは……!?」

「鳥型ってことはどいつもこいつも軽い。 だから台風みてぇに風で巻き込んでここに集めてんだよ」

≪我が手に鎮座せし暴風の王よ、今こそその見を縛る鎖を解き放つ時≫

≪いざ天へと駆け上がり声高らかに其の名を響かせよ≫


 建物に衝突したり風によって体が切れていたのだろう、螺旋を描くその軌道による遠心力で中に巻き込まれている鳥共の血が外へと出て行き、赤い旋風となって上空へと射出される。

 城よりも、塔よりも高くまで打ち上げられたその血風は遥か上空において弾け飛ぶ。

 あの高さなら俺がある程度暴れても問題ない。

 俺も跳躍し、腰の袋から取り出した金貨による指弾で生き残っていた鳥を念入りに始末していった。


 俺が地面に着地すると同時に空から鳥の破片や血が降り注ぐ。

 本日の天気、鳥のち血といったところか。


「お見事です、ショウ様。 まさかアレほどの呪文を唱えられるどころか、最後の最後まで念入りに詰める作戦に驚嘆でございます」

「鳥共には勿体無ぇ弾だったな、大分奮発しちまったぜ。 あぁ、ついでに呪文のせいで色々あっただろ、適当に修繕費とかにあてとけ」


 そう言って俺は執事のオッサンに金貨の入った袋を放り投げる。


「さーて、あとはテイマーを潰せば終わりか。……ってオイ、タイロックのあの女どこいった!?」

「さ……さぁ? いつの間にかいなくなってましたぁ」


 おいおいマジかよ、もしかして逃げたのかあの女ァ!

 そういや襲撃のタイミングが最悪だった、最初から目的だったワケか!


 ―――とか思っていたら、スグにタイロックとその肩に掴まった女が空から降りて来た。


「テメェ、軽すぎて風に巻き込まれて空まで飛んでいったのか」

「違うわよ。 チート持ちを探して始末してきたの、ほら」


 そう言ってタイロックが持っている生首を指差した。

 その額には確かに女にあったものと似た刺繍が入っており、タイロックが得意げな顔を浮かべている。


「クソが! 主人に雑用やらせといてテイマーのチート持ちだけちゃっかり倒しやがって!」

「違うわよ」

「アァ? 何が違うんだよ!」

「だからそいつ、テイマーのチートじゃないわよ。 そいつのチートは体臭よ」


 ……体臭?

 体臭ってつまり……臭いってことか?


「ふざけんなよ! 体臭で何がどうやったら鳥の魔物が襲ってくんだよ!」

「正確にはフェロモンね、チートで色々なフェロモンを出せるのよ。 鳥を集めたのもフェロモン、凶暴化させたのもフェロモンってこと」

「なんだそりゃ!? じゃあテイマーチートのお約束のドラゴンとかフェンリル種はいねぇのかよ!」


 だからあんな雑魚の魔物ばっかだったのかよ、期待して損したわ!

 そんな俺を慰める為か、タイロックが優しく肩に手を置いてきやがった。


「大丈夫、ショウ様、そんなに、匂わない」

「勝手の人を体臭のことでキレてる扱いしてんじゃねぇよ! しばくぞ!」

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