第50話:チートの肉塊
邪魔な障害を排除したショウは、前座に満足しながら歩みを進める。
そうして4人は遂に最深部の祭壇へと到達したのであった。
大部屋の中央には底無しかと思われるくらいに深い大穴があり、その周囲を取り囲むように信者と教主が熱心に祈りを捧げていた。
「よぉ、邪魔しに来たぜェ!」
そしてショウのその言葉によって祈りの言葉は悲鳴へと変わってしまった。
それもそうだろう、彼はここまで邪魔する為ではなく、皆殺しにする為に来たのだから。
「ど、どういうことだメナス! 何故あやつが来ておる!? 万事問題ないと言ったのはおぬしじゃろう!?」
「ええ、問題ないですよ。 ここで彼を倒せばそれで終わりなんですから」
教主であるヤーンが真っ青な顔をしながら抗議するも、メナスは涼しい顔をして受け流し、ショウの元へと歩みを進める。
「倒せば終わりじゃと!? ここまで侵入されておいて今更何を!!」
「大丈夫です。 僕は死ねないので負けません」
このメナスの言葉に偽りはなかった。
彼には無数のチート能力が移植されており、彼自身の戦闘経験もこの世界において誰よりもある。
そしてチート能力とは別の不死の力がある限り、彼はどんな相手であろうとも負けることはないだろう。
だが、この場にいる他の者は違う。
彼が死に瀕したとしても復活できるが、他の者達は戦闘に巻き込まれて死んでも復活できない。
それは教主であるヤーンであっても同じであった。
むしろヤーンにとっては、それこそがメナスの狙いなのだと確信した。
しかしそんな思いなど知らない2人が対峙する。
「よォ最強、その看板を獲りに来てやったぜェ!」
「僕は自分で最強を名乗ったことはないけど、キミに言われるのなら悪くないね」
ここが終着点であり、最後の戦いだと理解しているのだろう。
ショウとメナスは互いに笑みを浮かべながら歩み寄っていく。
互いに譲れぬ役目はあれど、それを除けばこの果し合いこそが2人の求めているものであった。
ショウは復讐を、メナスは死を。
まるで互いに欠けていたピースがはまったかのような場面であった。
「許さぬ……許さぬぞ……お前に目的と力を与えてやったというのに、いまさら奪われてたまるものか!!」
リスタート教団とは、元々この過酷な地において人々を団結させる為だけの集団であった。
全てを元に戻し新たなる人生をスタートさせるという目標を掲げることで人々に生きる目的を与えることが主目的であった。
しかしある日、信者のひとりが過去の転生者が残したチートアイテムを見つけてしまった。
転生者が自分以外の転生者のチートを手に入れる為に開発した【刻印糸】、一度も使われることなく死蔵されていたそれを見つけてしまったが故に、あやふやであった目標に実体を持たせてしまったのだ。
この力があれば何でもできる、やろう。
セフィロト大陸の奴らを見返してやれる、やろう。
封印されている厄災を復活させられる、やろう。
そうして坂を転がるボールのように転がり落ちていったのがリスタート教団の実体である。
教主のヤーンは本当にできるとは思わなかった。
だが計画してしまった。
生半可に成功してしまった。
だから止まることもできず、行き着くところまで転がり続け、堕ちるところまで堕ちてしまったのだ。
そう、すべてはもう遅かったのだ。
そして止まれないのであれば暴走するだけである。
教主のヤーンがメナスに向けて手を向けた瞬間、膝から崩れ落ちてしまった。
「メナスッ!?」
「おいテメェ!」
パルマとアズール、さらにショウが慌てて駆け寄ってメナスの身体を抱き起こすと、その身体の異常さに思わず息を呑んでしまった。
身体中に埋め込まれた刻印糸の数々が、まるで寄生虫のように皮膚を蠢き、体外へと出て行く。
全身に刻印糸が縫われていたことで様々なチートの恩恵を受けていたというのに、それが一気に喪失したことでメナスの身体はボロボロとなり、虫の息となってしまった。
そして出て行った刻印糸は元の持ち主である教主ヤーンの下に、さらに彼がまだ隠し持っていた刻印糸も集まりヤーンの全身に潜り込んでいった。
「ようやく、ようやくここまで来たのだ……まだ終わらせるわけにはいかん……終わってなるものか!!」
教主ヤーンの肉体は無数に取り込んだチートの内、【肉体改造】スキルによってぶくぶくと肥大化していく。
それはこの場で一番大きかったタイロックを跨げるほどであった。
だがチートを移植されたからといって、それを自由自在に扱えるわけではない。
肥大化したヤーンの肉体は最早原形など残っておらず、異様な肉塊へと変貌してしまったのであった。
「あ……ぅ……」
あまりにも醜悪なその姿を見て、その場にいた全員がその空気に飲み込まれていた。
例外は2人、ショウとメナスだけである。
神話から甦ったかのような怪物と化したヤーンなど無視して、ショウが大声をあげる。
「おいテメェ、しっかりしやがれ! 俺と決着つけるんだろうがッ!」
「………すま……な……い……」
あまりにも小さく、そしてか細い声で謝罪するメナスの姿を見て、ショウの表情が消えた。
元々彼は大声をあげたり人に乱暴な口調を使うが、どれだけ機嫌が悪くとも、思い通りにならなくともキレることはなかった。
例外はこれまでの生涯で一度、父親の死体を見た時だけであった。
そしてふたつめの例外が今であった。
生まれて初めて出会えた対等な相手。
出会いが違えば良き友にもなれた好敵手。
敵であるが故に殺し合うことが決められた運命。
一生で一度しか与えられないであろう最初で最後の本気の戦いを―――奪われた。
ショウの顔が憎悪に満ちたものになるのも致し方ない出来事であった。
「今のワシは100を超えるチートを持つ最強の存在! 貴様らを血祭りにあげ、今度こそ全てをやり直してやるのだぁ!!」
「上等だクソ野郎………テメェみてぇな肉塊、チートを手に入れたところでザコはザコってことをその身で刻んで焼いてバラバラの肉片にしてからやり直しさせてやる!」
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