第46話:共闘

 ショウが異次元に飲み込まれ、彼の剣が地面に落ちる。

 そしてその音で反応した奴隷達の速度は凄まじいものであった。


 逃げる、守るといった選択肢をいの一番に除外し、彼の奴隷らしくシンデレラへ突撃した。

 タイロックは首を狙い、本命であるキリエがガラスの靴を脱がせる為に足首を切り落とそうと武器を振るう。

 しかし2人がかりであろうとも、シンデレラにも2本の足がある。

 まるでカポエイラのように、シンデレラは腕で地面を掴み逆さになったまま足を回転させて2人を蹴り飛ばした。


 ショウとの訓練により格上との戦いに慣れていたことで咄嗟に遠くに飛ばされながらも受身をとることには成功し、次に来る追撃に備えて構える。

 だがシンデレラからの追撃はこなかった。


「イヤァァアアア!!」


 代わりに逃げ惑う信者達から悲鳴があがった。

 シンデレラにとって脅威であったのはショウのみであり、残りは理想の国に居ついた害獣程度の認識でしかない。

 だからシンデレラは手近な害獣を狩ることに興じることにしただけであった。


「王子様ならもういないよ、シンデレラ」

「無駄よ。 この女、人の言う事聞かないから」

「だからこんなヒステリックな姫になっちゃったんだもの」


 そんな暴虐の狩人と化したシンデレラに近づく者達がいる。

 つい先日、ショウと互角の戦いを繰り広げたメナス、そして敵意に満ちた目を向けるパルマとアズールであった。


 3人を強敵と認めたのか、シンデレラがけたたましい声で嗤う。

 それに対してパルマとアズールは侮蔑を込めた視線で、メナスは寂しげな微笑で返した。


 パルマが両手を叩くとメナスのすぐ目の前にまでシンデレラが移動し、それに合わせてメナスの枝葉の剣による一閃が放たれる。

 だが理想であり続けるシンデレラはその奇襲に反応したどころか、迎撃の一撃で枝葉の剣にあった刃の半分を折ってみせた。


 その隙にアズールがシンデレラの履くガラスの靴を奪おうと両手を叩くが何の効果も現れなかった。

 ガラスの靴あってこそのシンデレラ、つまりガラスの靴とシンデレラが一体化しているからだ。


「ごめん、ムリだった!」

「うん、じゃあ二人は下がってて」


 そうしてメナスとシンデレラによる一騎打ちが始まった。

 枝葉の剣とガラスの靴による激しい打ち合いは周囲に火花と刃の破片を散らせる。

 前回メナスは壊れ続ける刃の中からシンデレラを深い眠りに誘うものを引き当てたが、今はもうその刃はない。

 さてどうしたものかとメナスが考えていると、覚えのある気配を感じとった。


「……ムゥ」

「あれって前に戦った人達だよぉ」


 剣戟の音を聞きつけてやってきたタイロックとキリエに気をとられたせいで、メナスの腹にシンデレラの足が突き刺さる。

 咄嗟に後ろに飛んだことで貫通まではせず、腹に空いた穴は徐々に塞がっていった。


「キミ達はショウ君の友達かな、彼はどこに? うん、言わなくてもいいよ。 分かるから、シンデレラの理想郷に飲み込まれたみたいだね」


 メナスの持つチート【読心】によって、2人は一番知られたくない情報が漏れてしまったことに動揺した。


「あぁ、キミ達は何も気にしなくていいよ。 僕は邪魔になりそうな障害を排除するように言われただけだから。キミ達は違うよね」

「……違う、主人、ショウ様」

「この旅はあくまでショウ様の旅ですからぁ……」


 ショウ王の首を追うのを決めたのは主人であるショウであり、その行動もまたショウのものである。

 奴隷であるタイロックとキリエは自分達はそれに従う者であり、彼のやろうとする領分を侵さないことを主張した。


「うん、ならいいよ」


 そうして全員がシンデレラに挑む様に対峙した。


「よし、いい考え、ある」

「ちょっと何すんのよ!?」


 突然タイロックがパルマとアズールの首根っこを掴む。


「あぁ、まさかぁ……」

「それ面白いね」


 キリエは長い付き合いで、そしてメナスは【読心】で作戦を理解してしまった。

 タイロックは大きく振りかぶり、あろうことかシンデレラに向かってその2人を投げてしまった。

 しかしその軌道はシンデレラに直撃するというよりも、攻撃範囲のギリギリ外側を通過するものであった。


「拍手!」

「アンタ後で覚えてなさいよっ!」


 パルマは人を、アズールは人を引き寄せられる。

 シンデレラの頭上で2人が両手を叩き、タイロックの大槍と本人をシンデレラの真上に瞬間移動させたのであった。


 もちろん最初の奇襲を防いだシンデレラだ、片足で大槍を弾き返し、もうひとつの足でタイロックの肩肉を抉った。


「ヌゥン!」


 タイロックはそれすら織り込み済みであり、身体を捻り避けた体勢のままシンデレの片足を両腕でしっかり掴み、拘束することに成功した。

 とはいえ大槍を弾き飛ばした足がタイロックにトドメを刺そうと返す刀のように迫る。

 だがそれをメナスの剣が防いだ。


 両足の自由を奪われたシンデレラは翼のない鳥のようなものであり、その翼を断ち切るべく、メナスの影から地を這うように出てきたキリエがシンデレラの片足を切り落としてみせたのであった。


 ガラスの靴あってこそのシンデレラ。

 これで灰被り姫に掛かった魔法が解けたと確信した。


「■■■■■■■!!」


 シンデレラの絶叫と共に凄まじい衝撃波が発生する。。


 靴というのは2つあって一足である。

 つまり、シンデレラの魔法はまだ半分残っているのだ。

 

 シンデレラはタイロックとメナスに拘束されたままでありながら、己の理想の半分を切り落としたキリエに本気に蹴りを叩き込んだ。

 咄嗟に二刀のマインゴーシュで防ぐが、シンデレラの本気の一撃に耐えられず粉々に砕け、爪先がキリエの腹部に突き刺さった。


 至近距離で大砲を喰らったかのようなその衝撃によりキリエの内臓が破裂し肋骨も全て折れ、そのまま瓦礫の中へと吹っ飛ばされてしまった。

 虫の息であるキリエは、それでもなんとかしようと手を伸ばす。

 それを許すまじと憤怒と憎悪に支配されたシンデレラが、トドメの一撃を放とうとした。


≪ゴォーン………ゴォーン……≫


 鐘が鳴る。

 誰もがその音に耳を傾ける。

 シンデレラを起こす厄災の鐘の音が、魔法が解ける時間を知らせる鐘の音が。


「まったく、どうしてこんなに大きいのよ!」


 シンデレラの逸話はこの異世界でも伝わっている。

 12時の鐘の音によって魔法が解けるということも。

 だから別行動をしていたアルフが、今度こそ守ろうとする意思をもったアルフがシンデレラの魔法を解く為に鐘を鳴らしたのであった。


 だがシンデレラの魔法が解けてからもガラスの靴が残ったように、ガラスの靴がある限りシンデレラは不滅だ。

 だがシンデレラの意識を一瞬だけ逸らすことには成功したのだ。


 シンデレラによる死が鉄槌が迫る。

 メナスでさえ受け切れないその一撃を、キリエは真正面から受け止めてみせた。


 童話でもあるとおり、ガラスの靴という魔法の靴は相応しい者の所へと運ばれるものである。

 そしてガラスの靴を履くに相応しい人物は、ここにもいたのだ。

 

 「ハアアアァァァ!」


 半分ではあるものの、ガラスの靴によって己の理想の半分を叶えたキリエがそこにいた。

 主を守る従士であり、側に侍る奴隷であり……そして王子を待つシンデレラであった。


 こうして新たなるシンデレラは、古き残骸であるシンデレラを打ち壊すべく、ガラスの靴を翻した。

 別たれた理想と理想の衝突によって、ガラスの靴は天高くその音をかき鳴らした。

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