第15話:サプライズ
エキシビジョンの決闘が終わり、迎賓室で歓待を受けているものの、俺の機嫌がすこぶる悪いことを察してか誰も話しかけてこない。
「あのぅ、王子ぃ、なんでそんなにご機嫌がナナメなんですかぁ?」
―――が、そんなことをお構いなしに話しかけてくるのがキリエである。
「おぉそんなに知りたきゃ教えてやるよ! 先ず決闘大会の賞品がぶっ壊れたこと!」
そう、あのサプライズでタイクーンが持っていたチートアイテム、あれが決闘大会の優勝賞品だったのだ。
要は大会に優勝した凄い奴の攻撃も反射できる凄いペンダントを贈与するという流れだったのだが、俺が流れもペンダントもぶっ壊した。
だから戦い損だったってわけだ。
「そんで二つ目! あの決闘で俺の強さってやつを見せ付けたってのに、俺が強すぎたせいでプロレスだと思われたことだ!」
観客は決闘大会で何人もの強者を見てきた。
だが、サプライズの飛び入り乱入の俺がそれよりも強いというのが認められず、「あぁ、そういう催しか!」と勝手に納得して帰りやがった!
「最後に! この距離感がおかしいバカのせいだよ!」
そう言って俺は満員電車で座ってたら隣で肩によりかかってくる奴みたいに体重を預けてるタイクーンを離そうとするも離れやがらねぇ。
「キミに魅せられて僕ぁフラフラだっていうのに、乱暴じゃないか」
「俺が何度もブン投げたから酔っただけだろ!」
体調が悪いとかいいながら医者にかからず、何故か迎賓室にいやがる。
反射のペンダントがあればもう一回投げ捨てたところだ。
「いや、すまないねショウ王子。皇族であるが故に、腹を割って話せる者が少なくてね、キミとの距離感がまだよく分からないんだよ」
「無理やり離してやろうかこの野郎」
決闘で人力ジェットコースターした手前優しくしてやったのだが、それが間違いだったと後悔している。
「さて、茶番はここまでにしておいて聞きたいことがある。 キミは異世界転生者なのかい?」
「ああ、そうだよ。 お前もそうだと思ってたんだが、嘘だったとはな」
「すまないね……ただ、そうか……」
先ほどまでのテンションとはうってかわって、タイクーンは何故か物憂げな表情を浮かべている。
「過去、これまで何人もの異世界転生者がこの世界にやってきた。 そして様々な争いや衝突がありながらも、文明の発展に寄与してきたことで恩恵をもたらしていった」
「この世界がおかしくなった原因でもあるがな」
奴隷を解放したかと思えば大量の奴隷を生み出したり、ダンジョンを踏破しまくったかと思えば逆に作る奴が出てきたり。
他にも車がまだなのに鉄道と列車を作ったり、銃を作ったり、もう土地どころか技術ツリーまでおかしなことになってやがる。
「異世界転生者がこの世界に来る度、共通していることがある。 それはこの世界に大きな変革をもたらすというものだ。……ショウ王子、キミはこの世界にどんな変化をもたらすつもりなんだい?」
「知らねぇよそんなもん! 何か変化がほしいわ! なのにお約束をやろうとすると必ず失敗すんだよ、クソッタレが!」
今のままだとマジで親父殿の跡を継いで、ただひすたら毎日ウンウン頷くだけの人生になっちまう。
だから魔王が責めてきたとか邪神が復活したとか、そういうイベントがあれば喜んでブン殴りに行くぞ俺。
「フッ……キミのもたらす変革が、この地の滅びではないことを願うよ」
「滅びと再生ってか? 残念ながら、俺ぁ戦うことしかできねぇから滅んだらそのまま荒野だけになるぞ」
そんなことを話していたら、勢いよく扉が開かれてホド皇国の兵士が入ってきた。
「突然の無礼、お許しください! 先ほど、皇族の墓所に侵入者が入ったことが判明いたしました。 賊がまだどこかに潜んでいるやもしれない為、護衛を増やさせていただこうかと」
「フッフッ、必要ない。 なにせこちらには決闘大会の優勝者であるタイロック殿と、その主人であるショウ王子がいるのだよ」
「よほどおかしなチート持ちじゃなけりゃあ1秒で捕まえてやるよ。 つうか、その賊ってのは墓所に入ってなにやってたんだ?」
兵士が困ったようにタイクーンへと視線を送る。
まぁ他国の要人にそういうのは聞かれたくないんだろうな。
だがタイクーンは気にしていないのか、それとも自分が気になるからか兵士からの無言の問いに頷く。
「ハッ……実は墓所の中を捜索したところ、先々代であるタイクーン皇の遺体が……その、欠損しておりまして……」
「欠損?」
「その、首を……持ち去られたようです」
なんだそりゃ、埋蔵品じゃなくて首を持ってったってのか?
鎌倉武士でも異世界転生してきたのかと思ったが、あいつらはわざわざ墓を暴いて首を持ってったりしねぇだろ。
……いや、鎌倉武士ならやるのか?
「それにしても、首っつぅか遺体が残ってんのか。 ウチの国みてぇに火葬じゃねぇんだな」
「むしろ火葬の文化はティファレト国だけだよ。 どうして埋葬しないんだい?」
「あー、クソみてぇな理由なんだがな……初代のショウ王はニコポとナデポで建国しただろ? ショウ王が死んだ時、心酔してた奴らが遺体の奪い合いをやりやがって内乱が起きたんだよ。 それからはもう遺体は全部焼いて灰にするって決まった」
「それは、また……」
タイクーンが気まずそうな顔をするが、最初にクソみてぇな理由だって言っただろうが。
ほんと、先人の偉大さと迷惑っぷりは比例するもんだと思い知らされる。
そう考えると、俺も何かを成し遂げるにしてもそこそこにしておいた方がいいかもしれねぇな。
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