第15話:幕間:初代ショウ王の地獄ハーレム
ナーロッパ世界に転生したティファレト国最初の王となるショウは、自分のチートの素晴らしさを確信していた。
微笑むだけで人を幸福にさせるニコポのチート。
頭を撫でるだけで人に愛を教えられるナデポのチート。
この二つのチートがあればどんな困難も乗り越えられると、争う人々であろうとも手を取り合えると信じていた。
そしてその通りにショウは小国家の渡り歩き、ニコポとナデポによって大勢の味方をつけて統一を成し遂げた。
もちろん、それだけで国が富むわけではなく貧しい日々が続いた。
それでも国民が耐えられたのは、皆が等しく貧しく、そして心の中に一人の男がいたからだろう。
国家統一から5年が経過した。
国と人種はひとつにまとまり、優しく平和な時代が来ることを信じていた。
そして翌年、ゲブラー帝国から宣戦布告の使者がやってきた。
「なんでだよおおおおぉぉ……!!」
ショウの嘆きも最もだったが、ゲブラー帝国からすれば至極最もな理由があった。
なにせ小競り合いをしていた小国家群が突然統一国家となり、各国家の首脳陣は処刑も追放もされずに新たな王に付き従い、しかも貧しかったにも関わらず反乱の一つも起こらなかった。
国家運営を知る者達にとってはありえないことばかりであり、恐怖でしかなかった。
とはいえ、はいそうですかとショウは納得できるはずもなく、使者とよく話した。
そしてチートを使ってしまった。
使者はショウ王をゲブラー帝国まで連れて行き、話し合いの機会を作ることを約束した。
結果、宣戦布告は取り消されてゲブラー帝国とティファレト国の間に友好が結ばれた。
そして翌年、再び宣戦布告の使者がやってきた。
それも4人。
マルクト王朝、ビナー皇国、コクマ連邦、イェソド国の連合軍が結成されたのであった。
「どぉぉぉおおおしてぇぇえええええ!!」
ショウ王は再び叫んだ。
だがこれも仕方が無いことだろう。
ゲブラー帝国との友好が結ばれた後、各国はティファレト国に密偵を送った。
それを防げるほどの余裕はティファレト国になかったが、ショウ王は逆にそれを利用した。
我が国は争いを求めていない、友好こそが平和な道であると説き伏せて密偵を返した。
それが悪かった。
ショウ王がニコポとナデポのチートを持っているということは分かっていた。
だから密偵にはその対策となる装備を持たせており、効果が及ばないはずであった。
だが結果はどうか、送り込んだはずの密偵が口をそろえてあの国は平和であり脅威ではないと言うのだ。
恐ろしいに決まっている。
かつてローマの偉人、ガイウス・ユリウス・カエサルは言った。
来た、見た、勝ったと。
ショウ王はその言葉の通りのことを成すことができる。
例えば敵の10倍の戦力を用意したとしよう。
しかし戦場に彼が来て・彼の笑みを兵が見れば・全てが彼に平伏し勝利する。
争う人々とも手を取りあえるといった平和的なチートではない。
どんな暴力であろうとも、どんな相手であろうとも。
抵抗することも、逃れることもできず。
一方的に、それでいて強制的に他者を思い通りに征服する悪魔のようなチート。
それがニコポとナデポの持つチートの真価である。
事ここに至り、ショウ王はようやく自分の持ちチートの恐ろしさを理解した。
彼はとにかく連合国との和平を結ぶよう尽力した。
しかし自分が出て行けば余計に話がこじれることを分かっていたので、他者を信じて託すことにした。
何度も何度も根気強く交流をかわし、話し合いを重ね、そして20年の歳月を経てようやく和平が結ばれた。
後年のティファレト国における官僚制度の基礎はこの時に出来上がったものであった。
こうして様々な波乱がありながらも、ショウ王は全ての国との友好を結ぶことに成功した。
そうして成すべき事を成し遂げたショウ王は息を引き取った。
死の淵であろうとも彼は人々の中にある善性というものを信じていた。
必ず人は手を取り助け合えると、いつか必ず争いのない平和が築けると。
そうして彼は死んだ後、世界がどうなったかの一端を見た。
自分の遺体を奪い合う妻と権力者、そして国民達がそこにいた。
ニコポとナデポの効果は、彼が死んだ後にも人々に残っていた。
それが彼の死を切欠に、最悪の引き金をひいた。
ショウ王に魅了された人々は、死した彼の遺体ですら愛していた。
そして愛しているからこそ、それを独占しようとしたのであった。
もしも彼が生きていれば、皆をたしなめていただろう。
だが死者は黙して語らない。
ある者は腕を、またある者は耳を奪い、そして再び争いの種が芽吹いてしまった。
ニコポとは微笑むだけで人を幸福にさせるチートではない。
至高の快楽によって中毒者を生み出すものである。
ナデポとは頭を撫でるだけで人に愛を教えられるチートではない。
忘れられぬ愛を植え付け、愛に狂わせるものである。
「こんなのあんまりだああああぁぁぁぁ……!!」
ショウ王の絶叫はあの世に響き渡った。
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