第16話:今は遠き街景色

「おい……これぁどういうことだ」


 ホド皇国で1ヶ月ほど暇を潰してから帰国した俺の目に惨状が広がっており、かつてあったその街の区画は以前とはかけ離れたものになっていた。


「ここが……スラム街ぃ……」

「面影、残って、ない……」


 キリエとタイロックも言葉を飲み込むほどの変わり具合であることから、俺と同じくらい衝撃を受けたのだろう。


 俺は近くにいたこの惨状を作り出したと思われる奴を捕まえ、揺さぶる。


「おいテメェ、これぁどういうことだ!?」

「お、王子!? ど、どうというのは―――」

「しらばっくれんじゃねぇ、この惨状について説明しろってんだ!」


 俺が指差した先には、道の舗装が剥がれ、窓も割れたまま、酔っ払いや行き先のない奴らがいたスラム街の風景ががなくなっていた。

 あるのは道路の舗装に建物の改修と建築によって生まれ変わろうとしている街の姿であった。


「あぁ、今までずっと手がつけられず放置されていた区画だったのですが、ショウ王からの命令により区画の整備をしております。 王子が何度もあししげく通われて治安を改善してくださったおかげですぞ」

「ふざけんじゃねぇ! 俺はそんなことした覚えはねえ! ただ働く先がなくて道の邪魔になってるバカ共を役場に放り込んで、暴れる奴をシメて、盗賊ギルドの奴らを丁寧にぶっ潰してただけだ!」


 そんな興奮している俺にキリエが申し訳なさそうな顔をして肩を叩いてきた。


「あのぉ王子ぃ、それは治安活動なんじゃ……」

「目に付く犯罪者共を全員ぶちのめしてただけなのにか!?」

「だからみんな、ここから逃げたんだと思いますけどぉ」

「ハァ!? ふざけんなよ、やられたならやり返しに来いよ! 逃げんじゃねぇよ!!」


 そんなんでよく盗賊ギルドとか名乗れたな。

 せめて裏の人間なら暗殺ギルドに俺の暗殺を依頼するくらいやれよ、そうすれば今度は暗殺ギルドに殴りこみにいってやるのに。


 ―――待てよ、逃げたって言ってたな?

 どこにだ?

 いや、それはどうでもいい。


 重要なのは、逃げる先があるということだ。

 つまり、他の場所のスラム街も潰せば俺に歯向かう奴らが最終的にそこに全戦力が集結するということだ。


 こいつぁ面白くなってきやがった。

 さぁ追い詰められた奴らがどんな手を使って俺を殺しに来るのかが楽しみだ!

 ハハハハハ!……そういえばなんだが―――。


「なぁ、俺はなんでスラム街に来てたんだ?」

「王子、暴力装置、だから、それらしくする、言ってた」


 そういえば最初は暴れるくらいしかチートの使い道がないから、暴れるついでにクソみたいなスラム街をどうにかしようって思ってたんだった。

 やべぇな、完全に忘れてたぞ。

 それどころか俺のやろうとしてたことを親父殿が先にやっちまった。


 ―――いいや、まだだ!

 ここのスラム街はなくなったが、他にもまだこういった場所はあるはずだ。

 ここがナーロッパ世界なら、もう遅いというのは追放されてからだ。

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