第21話:難民の砦
「難民だぁ?」
「そうそう、前のスタンピードで北と南からやってきてね。 お前はどうにも血の気が多い、ここらで平和的な手法というものを学ぶにはいい機会だ」
魔物のスタンピード後、何かイベントが起きないかと待ちわびていたのだが期待していたものとは違うものがやってきた。
「南側の難民5000は私に来て欲しいと言われたから、お前に北側の1000を任せたいんだが、どうだ?」
「なぁんでそんな面倒な―――」
―――とこれまでなら断っていただろうが、親父殿が今までこうやって俺に何かを任せようとしたことは今までなかった。
どうやら前の"よくできたで賞"から俺への認識が改まったのかもしれねえ。
「ハッ、俺に任せな。 全員即効で追い出してやるよ」
「ちなみに血を流さずにこれを治めなさい」
「ハァッ!?」
つまり説得しろってことかよ、マジで面倒くせぇな。
「これができたらメレクちゃんもきっとお前を惚れ直すぞ。 頑張れ、頑張れ!」
「男に言われても嬉しくねぇんだよ! ってかあいつニコポとナデポ解除したのに前よりグイグイくるけど何なんだよ、ワケが分かんねぇしマジ怖ぇんだけど!?」
「夫婦になるなら相互理解が大切って助言したからな。 まぁ二人共まだ若いんだしこれからだ。 じゃ、頼んだぞ~」
「おいテメェのせいじゃねぇか! なんとかしやがれ!」
俺の言葉を聞かず、言いたいことだけ言い残してササっとクソ親父は逃げていった。
メレクがどうのこうのってのはどうでもいいが、頼まれたからにはやってやるか。
それにしても、血の一滴も流さずに難民をどうにかしろか。
全員にニコポとナデボでも使えば楽勝だろう。
んなことしたら親父殿は何も言わないだろうが、今後何も任せてもらえねぇだろうな。
「おいタイロック、キリエ。 さくっとこの面倒事を片付けに行くぞ」
「それはいいのですけどぉ、部隊編成とかどうしますか王子ぃ?」
「要らん!」
「………へ?」
そうして数時間後、昔の転生者が作った列車で移動し、そこからテイムによって家畜化された魔物が引く騎車を用意し、国境近くにある放棄された砦へと向かった。
「あのぉ王子ぃ……たった3人で来て大丈夫なんですかぁ?」
騎車の一つを預けているキリエが不安そうにしていたので、大声で答える。
「親父殿が血を流すなつってたろ。 騎士が勝手に剣抜くことを考えりゃあ、この人数が一番だ」
俺は当然だが、タイロックとキリエもそれなりに強い。
こいつらなら難民が襲ってこようとかすり傷一つ付くことも負わせることも心配する必要ねえだろ。
さて、放棄された砦の中からなにやら声がもれているので、申し訳程度の変装用フードを被って中に潜入する。
中では老若男女が入り混じり、炊き出しやらなにやら……あと少し高い段でリーダー格っぽい奴が演説をしていた。
「貧困に喘ぎ、苦しむ日々は終わりを告げました! ここまで来れば追っ手も来ないでしょう……ですが、それで本当にいいのか? この国にも我々と同じ苦しみを味わった人々がいる、彼らを見捨てるは我らが同胞を見捨てるも同義!」
……なんか悦に入ってんなアイツ。
おかしな薬でもキメてんじゃねぇか?
「苦しむ彼らと共に戦い、理不尽な弱者への搾取を打ち破って我らの幸福を実現しようではないか! 恐れることはありません、これは正しき行い、聖戦なのですから!」
≪ワァァアアアアア!!≫
砦の中は大熱狂に包まれていたが、俺にはそんなこと関係なかった。
「おいテメェ、今なんつった!」
一呼吸で跳躍して壇上の奴を胸倉を掴むと、そいつは目に見えて慌てだした。
「な、なんだお前は!?」
「俺が誰かなんてどうでもいいんだよ。 それよりお前言ったよな、理不尽な弱者への搾取があるってなァ!?」
「そ、そうだ! だから我々が立ち上がり―――」
「そいつを待ってたんだよ!」
へっ……まさかまさか、こんな所で見つかるなんてな。
「俺がティファレト国、ショウ15世だ。 さぁ言え、その搾取してる奴のところへ案内しろ! 俺が世直ししてやる!」
タイトルをつけるなら、暴れん坊王子だな。
いや~、まさか異世界転生どころか時代劇のお約束が用意してあるなんて最高じゃねぇか!
「あのぉ王子ぃ、王からは血を流さないようにとのお言葉があったと思うのですがぁ」
「そりゃ難民1000人についてだ。 悪代官は1001人目だからしばいてもいい」
さぁ兵士を用意して待ってろよ悪代官と悪徳商人共、そいつら全部叩き潰して俺の力ってやつを見せてやるぜ!
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