第39話:本気の小手調べ
奴隷と従者が戦いで罵声が飛び交う頃、ショウは幽鬼のように佇む男、メナスと互角の戦いを繰り広げていた。
不可視の剣による斬撃も厄介だが、アルフが言う複数のチートも脅威であった。
不可視の剣を振るいながら喋ることなく呪文による攻撃。
を死角からの攻撃に対して本来曲がらないはずの方向へ腕が曲がり受け流す。
そしてその負傷が即座に治癒される。
そこまで読んでの攻撃呪文は左手一本で霧散させられる。
「今分かってるだけで【無詠唱】、【自動パリィ】、【重量無効】、【超再生】、左腕に【エーテル無効化】ってところか」
ショウも【万能戦闘技能】というチート能力を持ち、複数の戦闘スキルを卑怯だといわんばかりのレベルで利用しているので複数のチート持ちに見えなくもない。
しかし、その戦闘スキルもあくまで普通に存在しているスキルのレベルを高めたものであって、チートのような反則的な効果を持つわけではないのだ。
だからこそショウはチートというものがどういうものか知っているというアドバンテージを利用し、互角以上の戦いに持ち込んでいた。
「流石にこんだけ斬られりゃあ、見えなくても分かるんだよォ!」
ショウが喉元にまで迫った不可視の刃を白刃取りで掴み、力任せにねじ折った。
ねじ折った刃をメナスに投げつけ、その隙に腰元に差していた剣を構える。
先ほどまでは剣を手に取る隙もなかったことから相手の力量はかなりのものであるのが伺える。
だというのにメナスは折られた剣を気にすることなく、ショウの握る剣へと意識が向けられていた。
「……ショウ君、だったね」
「チッ、【鑑定】みたいなもんも持ってんのか」
名乗っていないのに名を知られていることから更なるチートが判明し、ショウが舌打ちをする。
しかしメナスはそれを気にすることなく言葉を続けた。
「その剣、王の首と交換しないかい?」
「ハァ?」
あまりにも突拍子も無い提案にショウは戦闘中であるというのに呆気に取られてしまう。
「……あぁ、ごめん。 あれは渡せないんだった、忘れてくれ」
「意味わかんねぇなテメェ」
メナスは落胆しながらも、背負っていた剣を引き抜いた。
「なんだそりゃ、七支刀か?」
メナスの持つ剣は刃からまた別の刃が枝分かれしている。
ショウは七支刀と言ったが、その刃の数は10もあった。
「これは枝葉の剣、かつて全ての剣はこの剣から生まれたとされていたこともある。 今となってはただの御伽噺だけどね」
枝葉の剣は文字通りその刃が枝葉のように分かれ、成長していくことで新たな剣を産み落とす。
先ほどまでメナスが使っていた不可視の剣もそうやって生み出されたものだ。
もちろん成長段階である刃であっても、その剣が持つ特別な力は発揮される。
だからこそ迂闊には踏み込めないのだが、そんなことで足踏みをするショウではない。
臆することなく果敢に歩を進める。
それに応じてメナスが枝葉の剣を振るう。
振るわれた刃からは毒液が撒き散らされ、さらに時間差で再び同じ斬撃が飛ぶ。
しかし先ほどとは違い紙一重ではなく大きく回避していたショウはその全てを避け、カウンターを仕掛ける。
先ずは武器を破壊することを目的としたその攻撃は目論見どおり枝葉の剣の刃を2枚減らした。
まだ成熟していない枝葉だからこそ破壊できると踏んでの攻撃であった。
だが枝葉の剣から生えた根はメナスの腕へと刺さり、その血を吸収する。
そしてすぐさま新しい刃が生えてきたのを見て、ショウは剣への攻撃を止めることにした。
刃の破壊そのものは可能だが、壊すたびに新たな力を持った刃すことを避ける為であった。
そこでショウは自傷覚悟のカウンターを決行する。
枝葉の剣による突きを敢えて左肩で受け、メナスの左手を切断したのであった。
攻撃中であれば【自動パリィ】が発動しない、枝葉の剣から出ている刃には特殊な力はあるが、枝葉本体の刃には付与効果がないと判断してのことであった。
そしてショウの目論見どおりメナスの右腕が切れ、【エーテル無効化】のチートがなくなったことで好きに呪文が使えるようになった。
だが、メナスは自身の左手がなくなったというのに全く動じていなかった。
それどころか腕を切り落としたショウに微笑むほどの余裕を見せ付けた。
「強いね、キミ。 楽しいよ」
「あぁそうかい。 なら死ぬほど楽しませてやる!」
「でもそろそろ帰らないといけないから。 またね、ショウ君」
そう言うと切り落としたはずの左手が地面に落ちた刃を拾い、それを握りショウへと襲い掛かった。
「手ぇ一本でどうにかなるとでも―――」
奇襲の一手をさばいたショウであったが、肝心のメナスはそこ場から離れており、仲間のパルマとアズールを抱きかかえていた。
「帰るよ、2人共」
「メナスがそう言うなら」
そしてパルマとアズール、2人が両手で拍手をした途端、その場からサッパリと消えてしまった。
「クソがッ、逃がしちまった!」
くやしがるショウであったが、その口端は吊りあがっており、本気を出して戦える相手に対しての興奮が冷め切らないでいた。
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