第10話:所詮はただの暴力装置

 母上の話を聞いてから、今までずっと迷わずに駆けていた足が初めて止まった。


 今でも異世界転生の醍醐味を味わいたいという気持ちもあれば、チートを活用したいという気持ちもある。


 ただ、俺のチートを使って何ができるというのか。

 俺が今使えるチート能力はどう言い繕おうにも、ただの暴力装置にすぎない。

 親父殿のやっていることに比べてなんと幼稚だろうか。


 ―――だが、それに何の問題があるのだろうか。


 例えば見ただけで人を殺すチートがあったとしよう。

 誰かの腹を満たすわけでも、幸福にするわけでもないそのチートは忌み嫌われるものだろう。


 だが、そのチートを使って今まさに魔物に襲われている者を助けたとなればどうか。

 いまわしきチートで救われた者として石を投げるか?

 お前は助かるべきではなかったと責めるか?


 いいや、そうはならない。

 銃は人を殺すことしかできないが、殺すことで助かる者もいる。

 チートも同じだ。


 どんな経緯でその力を手に入れようとも、どんな人間がその力を使おうとも、何を成し遂げたかが重要なのだ。

 なにせ誰も救えずに一生を終える者の方が多いことを考えれば、極端な話、たった一人の命を救いさえすれば上等だ。


 ならば俺は暴力装置らしくこのチートを使おう。


「―――というわけでやってきたぜ、スラム街」

「えぇ……」


 奴隷兼従士のキリエとタイロックを引き連れ、汚い街路を見る。

 俺が王だったらまとめて焼いて浄火してたかもしれん。


「お前らを従士にしといてよかったぜ、おかげで城の外で自由にしていいって許可もらったからな」

「王子、その自由、スラム街、行くこと、含まれてない、危険」

「あぁん? 騎士団で最強って言われてるテメーらと、お前らよりツエー俺がいて何が危険なんだよ。 つうかもし本当にそうなら逆にそれ調べねけと駄目だろ」


 まぁ他のチート持ち転生者がいたらどうなるか分からねぇが、生半可なチートなら正面から押し潰せるから問題ない。


 そんなこんなでスラム街を歩く。

 まぁ分かっていたことだが臭い、汚い、歩きにくい。

 主に地面にぶっ倒れている酔っ払い共のせいだが。


 そうして歩き続けて数十分、何事もなくスラム街を横断することができた。


「……おい! なんで俺にからんでこねぇんだよ! スラム街でボンボン見たら突っかかってくるのが作法だろうが!!」

「え、えっ? いきなり何なのあんた!?」


 八つ当たりであることは自覚しているが、それでも言わずにはいられず地面に落ちていた酔っ払いにぶつけた。

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