第22話:急転直下

「うわぁぁああああ! あのスラム街が綺麗な通りになってるぅぅうううう!!」

「まぁ丁寧にすり潰していったからな」


 難民共を連れて街までやってきたってのに、難民のリーダーの奴は慌てふためいてやがる。


「で、お前の言ってた圧政者だか搾取する奴だかはどこだ?」

「えー、そのぉ…………ここになかったら、ない……ですねぇ……」

「まさかテメェ……俺を騙したのか?」


 期待を裏切った罰を下そうと剣を抜いたところ、タイロックが掴んで止めてきた。


「王子、それ、難民、血、流すの、駄目」

「チッ、そうだった。 命拾いしたなこの野郎」


 親父殿に言われてなかったらしばいてたところだ。

 そしてそんなことをしてたら知らないオッサンが恐る恐るこちらにやって来た。


「な、なぁ……ここならワシでも働けるのか?」

「あぁん? 知らねぇよ、仕事ならいくらでもあるから勝手に探してこい。 ってかその前に無料の公衆浴場あるからそこでその汚ねぇ身なりをなんとかしてきやがれ!」


 大分ここも綺麗になったとはいえ、再開発にゃまだまだ人手がいる。

 探せばいくらでも仕事なんか転がってることだろう。

 そして今度はガキがやってきた。


「ねぇ、王子様! 子供でも働ける場所あるかな?」

「ガキが働ける場所はねえよ! 諦めて兵士学校入って勉強して、成人したら辞めて普通の職場探せ!」


 そんなことをしていたら次々と難民共が押し寄せてきやがった。

 やれ仕事は、食料は、寝泊りできる場所はどうのこうのと―――。


「あぁもううざってぇ! 俺ぁ悪代官探すのに忙しいんだ! 働きてぇ奴も住む場所ねえ奴もまとめて役所に行け! 言えば答えるだけの頭はあるわ!」


≪やったぁあああああああ!≫

≪ありがとう王子! 万歳!≫


 そう言って難民達は役所の方へと向かっていったが、あのまま放っておくのもアレだな。

 なので俺はタイロックに合図し、こっそりその場から逃げようとしていたリーダー格の男を捕まえさせた。


「タイロック、通さない」

「ひぃっ!? な、なんですかもう用はないでしょう!?」


 こいつ、演説の時はキャラ作ってたな。

 今はもう普通の男にしか見えねえぞ。


「おらっ、テメェが集めた奴らならテメェが最後まで面倒見ろ」


 そう言って金貨の入った袋を男に投げつけた。


「生活が安定するまでなら十分だろ。 ちなみに着服なんかしたらタダじゃ……いや、有りだな! おい、お前がその金を着服して悪い事に使えば俺がブチのめしに行ける理由になる、だから遠慮なく好き勝手に使っていいぞ!」

「誠心誠意、皆の為に使わせて頂きます!」


 難民扇動してたくせに根性ねえなこいつは!

 まぁいい、これで予定通り難民問題は片付いた。

 親父殿にも気持ちよく報告できるってもんだ。


「それにしても、どうだこのスピード解決? 流石の親父殿も予想できねぇだろうな」

「ショウ王もぉ、お喜びになると思いますぅ」

「ショウ王、また、スタンプくれる、王子、嬉しい」


 流石にまた同じネタはやらねぇだろ。

 ……やらねぇよな?


 そんな感じでタイロックとキリエと城へと戻る。


「……あれ、どうしました王子ぃ?」

「なんか、変じゃねぇか」


 なんと言えばいいのだろうか、城の中にただならぬ緊張感が漂っている。


 城の中は兵と騎士が慌しく動いており、さながらこれから戦争でも起きるのかと思う有様だった。


「うぉーい、王子様のご帰還だ!」


 玉座の間に入ると、大勢の騎士と官僚たちがそこに詰めているというのに、奇妙なまでに静まり返っていた。


「あん? どうした……ってか人様に仕事を頼んだってのに親父殿はどこいった?」

「そ、その……もしかしたら間違いなのかもしれませんが……」

「間違いだぁ? 気にすんな、お優しい親父殿は大抵のことなら次は頑張れですませてくれっからよ」


 鎧に土汚れがついている一人の騎士が怯えながら話しかけてきたが、それよりも気になるものがあった。


「……おいテメェら、そこで何してる」


 玉座の横では、不恰好な鎧を着せられながら剣を佩く弟のユウエルの姿があった。


「に、にい、さん……」

「おいユウエル、なんて物持ってやがる。 オメーにそんなもんは似合わねぇ、さっさとこっちに寄越せ」


 そう言って剣を取り上げようとしたのだが、ユウエルは両手で抱えて離さない。


「…………何があった」


 誰も答えない。

 ユウエルも何か言おうとするが、溺れそうな呼吸のせいで言葉が出てこないようだった。

 見るに見かねたのか、シール先生が前に出てきた。


「ショウ王子、落ち着いて聞いてください。……あなた様のお父上であるショウ王が、暗殺されました」


 その瞬間、仄暗き凶刃が俺へと飛来した。

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