第23話:チート持ち暗殺者

 俺が咄嗟にユウエルの前に立ちはだかり刃を受け止めようとするが、その黒刃が届く前にタイロックが掴んだ。

 俺は黒刃が飛来してきた方向を睨むがそこには何もいない、だがその何もない箇所から再び黒刃が高速で迫る。

 俺の剣戟よりも何倍も遅いそれをタイロックが再び掴み、その影に隠れていたもう1枚の刃を俺がユウエルから取り上げた剣で叩き落した。


 姿なし、気配なし、臭いも音もなし。

 さぁて、俺でも察知できないとなると十中八九これを投げてきたクソ野郎はチート持ちだ。

 気配遮断やステルス、その辺りだろうか。

 ここが平野ならば回避不能防御不可の攻撃で俺を中心に爆心地にしてやるが、ここでやれば城ごと吹き飛ぶ。

どうしたもんかなと思っていたらキリエが何もない空間へと跳躍した。

 それに応じるように黒刃がキリエに迫るがその全てを両手のマインゴーシュで弾き返し、何もない空間に両手の剣を突き刺す。


「王子ぃ!」


 そして体勢を崩した状態で落下したので、それぞれの手でキリエと突き刺された何かを掴む。

 どうやら掴んだ奴は吸血鬼の霧化のようなものまでは使えないようで、そのまま地面に叩き付けた。


「おう、よくやったな。 ところでどうやってこの覗き野郎を見つけた?」

「私ってほらぁ、種族があれじゃないですかぁ。 だから男の人のいる場所がじんわり分かるんですけど、あそこの位置だけそのじんわりした空気が消失してたんですよぉ」


 ほほぉ、サキュバス特有の男を察知する能力で捉えることはできなかったが、チートによる気配遮断が強すぎるせいで逆に気配がない場所を見つけられたということか。


「おい、チートを解けクソ野郎。 でなきゃこのまま握り潰す」


 本音を言うならそのまま握り潰す理由がほしかったのだが、こいつはあっさり解いてしまった。

 白いフードとローブに身を包んだその男は両手をあげて降参するかのようなポーズをとる。

 そして隠していた尻尾の針を動かした瞬間にタイロックが踏み抜き、千切れた。


「おい馬鹿、千切ったら血で汚ねぇだろうが」


 そう言って俺はその男の両手を交差させて、そのまま360度回転させた。


「~~~~ッ!?」


 刺客らしき男が苦悶の顔を滲ませ、脂汗を浮かべることから動く余裕はなさそうだ。


「―――で、シール先生。 暗殺されたってのはこいつにか?」

「いいえ。 難民の説得に向かったその先で、現地にいた騎士による反乱が起きたらしく、その際に呪文による緊急信号にてショウ王が倒れたと」

「ハァ?」


 騎士の反乱?

 いっちゃなんだが、ウチの国はだだ甘だ。

 例え悪政によって民が武器を持とうとも、王に刃を向けるくらいならば自害すると豪語するくらい騎士団は親父殿と王族に甘い。


「洗脳か? いや、親父殿にゃ血統チートでニコポとナデポがあるしな」

「ヒ……ヒヒ……」

 

 足元にいたクソの声が耳障りだったので軽く顔を蹴り飛ばすと、血と歯が床を汚す。

 その時、ローブが外れてそいつの首から顔の右半分にかけて鱗に覆われている箇所が露出し、先生が小さな悲鳴をあげる。


「知りたいか? なら教えてやろう」


 俺は床に転がるクソの顔面を踏みつけた。

 血と歯がさらに飛び散る。

 

「チートによる洗脳というのは出力が強い方へと上書きされる。 愚かなる王はそれを知らず、騎士への洗脳を解こうとした」

「黙ってろクソ虫、弟が嫌がってる」


 足に更に力を込める。

 頭蓋骨にヒビが入り脳漿が漏れかけているがそれでも耳障りな音が聞こえる。


「そして貴様らの王は慢心して騎士に近づき、その首を刎ねられた。 最も弱く、最も無能な王にはお似合いの最期―――」


 俺は足で踏み抜いた。

 雑音がようやく聞こえなくなった。

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