第24話:ザ・オーダー
玉座の間は静寂と一人の男によって支配されていた。
悲しんでいるのか、それとも怒っているのか。
怒っているならば、どれほどの怒りがあるのか。
鉄兜のせいで表情が見えず、誰もそれが分からない。
「おい、奴隷共」
「ハッ!」
この場において奴隷の肩書きを持つ者は2人しかいない。
タイロックとキリエは粛々と主人の次の言葉を待つ。
「命令だ、ユーエルを護れ」
「―――魂と誇りに懸けて」
目の前の男は今までぶっきらぼうな指示や怒声ばかりかけていた。
しかし一度も命令をしなかった、命じて失敗すれば罰が必要になるからだ。
男の小さな優しさか、それとも信用しなかったからなのか。
それでも男は初めて命令を下した。
自分ではなく、誰かを信じて任せた。
その機会と信頼の重さを感じ取ったからこそ、一瞬の逡巡からその命令を拝命したのであった。
男がゆっくりと歩いて玉座の間にあるステンドグラスへと近づくが、その歩みをユーエルが小さな手で引きとめた。
「にいさま、どこ、行くの?」
ショウは鉄兜を少しだけずらし、弟と同じ目線まで屈む。
「ちょいと面倒ごとを片付けてくる、母上を頼んだぞ」
ショウは鉄兜の隙間から弟を安心させる為に笑い、優しく撫でた。
しかし弟のユーエルは兄の中から溢れ出そうなまでの熱があることに気付いていた。
勉強も武芸もできず、ただ劣った弟として見られていた彼だけが家族の内面というものを誰よりも理解していた。
「……うん、待ってる、から」
理解しているからこそ、止めることができなかった。
無理に引き止めればきっと兄は止まるだろう。
そうして内側から零れそうな熱でその身を焦がしてしまうから。
タイロックがユーエルを下げてから、ショウは鉄兜を被りなおして一呼吸だけ気合を入れる。
そうしてステンドグラスを叩き割り、己の目指すべき場所を見定める。
男にはチートがある。
阻むものさえなければ、男の目から逃れることは叶わない。
男は一直線に跳躍……いや、弾丸のように飛翔する。
その速度は恐るべきものであり、首都に存在するガラスの50%が割れてしまうほどであった。
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