第41話:不死身のバリアチート殺し

 リスタート教団の逃げた方向へと歩き続ける。

 荒廃した景色だけだと思っていたが、意外にも森やらなにやらがあり変化が多い。


 遠くにひたすら黒い煙の壁が出来上がってるところもあるが、あれが豊穣のチートと地獄の炎が拮抗している黒煙の森ってところか。

 自然環境保護団体が存在してたら泡吹いて気絶しそうだな。


「うっし、暗くなってきたしそろそろ休むか」

「……アルフはまだいけるわよ」

「そりゃテメェは序盤で力尽きて俺がわざわざ肩に乗せて運んでやってるからな」


 この女、最初こそ意気揚々と先頭を歩いてたってのに数時間で息切れしやがった。

 休憩するかと聞いても時間が勿体無いとか言って、カタツムリみてぇな速さになったから無理やり担いでいる。

 まぁ地面に下ろしたら生まれたての小鹿みてぇに足がプルップルだからなコイツ。


「それじゃマジックハウスを展開しますぅ」


 キリエが荷物の中から大きめの箱を取り出して開いて四面を展開していき、やがてひとつの敷地になった。


「マジックハウス起動ぉ」


 その呪文によって少し狭いが小さな家が敷地から出てくる。

 マルクト王朝で渡された荷物のひとつであるマジックハウスである。

 昔の異世界転生者が作ったアイテムでそれなりに貴重だが、使いどころが難しく死蔵されてるのがほとんどだ。

 なにせセフィロト大陸はほとんど開発されているし交通手段も豊富だ。

 わざわざ遠出して家を出すような事態などほとんどない。


「オラ、テメェはそこで大人しくしてろ」


 マジックハウスに入り、すぐさま肩のお荷物である女をベッドに投げ捨てる。

 重くはなかったがなんか肩の方に憑いてた何かが取れたような気がした。


「ベッドが2つ、ここには4人……つまりはそういうことね?」

「どういうつもりかは知らねぇが、監視もかねてテメェはキリエとそこで寝ろ」

「じゃあアンタはそこの猫と寝るの? ベッドからはみ出ない?」

「コイツは床でいいだろ」


 タイロックが抗議を兼ねた視線を送ってくるが無視する。

 外じゃないだけマシだと思え。


 そうして適当な食材でカレーを作り夕飯にする。

 異世界ならそれらしい料理でもあればいいのだが、文化汚染によって元の料理はほとんど残ってない。

 まぁ料理の発展には安定した食糧供給と余裕があって初めて進歩するもんだ。

 世界の最初期じゃクソ硬い黒パンとか野菜クズのスープとかそういうのばっかだったことを考えると、これでもマシな方だろう。


 ちなみに女は黙々と食べておかわりまでする始末。

 こんな環境じゃただのカレーでもこいつにはご馳走だろうよ。


 そうして枕投げでもする歳でもないのでさっさと寝ることにした。

 だが星明りしかない深夜に気配を感じて起き上がる。


 タイロックも同じタイミングで目覚めて立ち上がり、キリエはそこでようやく気付いたらしい。

 女は熟睡してたがキリエが動いたせいで起きてしまった。


「むぅ……刺客……? よし、いくわよ」


 ベッドから降りてフラフラと歩いたかと思えば、俺の腰にぶつかりやがったので首根っこを掴んで持ち上げる。


「テメェは邪魔だから寝てろ」

「なに言ってんのよ……あいてがチート持ちなら……アルフが教えるないとでしょ……」


 それでも邪魔なことには変わりないので、タイロックの方へと投げておいた。

 奴隷としてはともかく毛布として優秀なのか、タイロックに腕に包まれた女は寝息を立てる寸前だ。


 まぁそんなどうでもいいことはさておき、外に出て明かりを強くすると遠くからひとりの男がやってくるのが見えた。


「不死身のエイギス、異世界転生者の王子の命を貰い受ける」


 そう言って男が2本の剣を構える。


「むぅ……エイギス……えっと、たしか【バリア】のチート持ちだったはず……毒・炎・氷・雷だけじゃなくて、水中とか溶岩も無効化したはず……」

「ほぉ~」


 眠たそうにいう女の言うことが本当ならば、昨日戦ったアイツの攻撃を喰らっても無事だったってことか。

 つまりこいつをブチ殺せれば俺はアイツ以上ってことが証明されるな。


「そんじゃ軽く一発いくかオラァ!」


 俺は剣を抜き、思い切り男に向かって振りぬいた。

 激しい衝突音と共に、男がその場から消え去った。


「…………オイ」


 いや、実際に消えたわけではない。

 ただバットで打たれたボールのように飛んでいった。

 それはもう文句なしのホームランの軌道で。


 その後、しばらく待っても戻ってこないので全員でマジックハウスに戻って寝ることにした。


 そして翌日、朝食を終えた頃にそいつは戻って来た。


「ゼェ……ゼェ……キサマの……ォェッ……攻撃など……私には……ハァ……フゥ…………効かん!」

「お、おう」


 確かに男の姿を見るに傷ひとつない。

 しかし乳酸による肉体ダメージまでは無効化できなかったようだ。


 このまま水平線の果てまでぶっ飛ばしてもいいのだが、忘れた頃にやってこられても困る。


 仕方が無いので今度は上段からの振り下ろしを男に叩き付ける。


「ぐわああああああぁぁぁぁ………」


 男は地面に叩きつけられた反動で空高くまで打ち上げられ、数分後に地面に大きな穴を開けて戻って来た。


「ハァ……ハァ……ど、どうだ……たとえ……空の果てまで……飛ぼうとも……私は……死なんのだ……!!」


 どうやら大気圏の向こう側までは飛ばせなかったらしい。

 準備と時間をかければ空の星のひとつにすることも不可能ではないが、こんなのにそんなに手間をかける時間が勿体無い。


 どうしたものかと考えていると、ふと悪いことを思いついた。

 ヒヨコが生きてる限り殻が割れないのなら、ヒヨコを殺して割ればいい。


「おいタイロック、ちょっと遠くまで離れろ」

「成る程、了解」


 俺のやろうとすることを察し、タイロックは100メートル以上離れた地点まで移動した。


「よーし、キャッチボールやろうぜ。 テメェはボールな!」


 そう言って俺はシールド持ちの男を思い切りブン殴り、タイロックのいる方向へとぶっ飛ばした。


「うおおおおぉぉぉ…………!?」


 タイロックのいる場所まで飛ばされたがまだ終わりじゃない。

 吹っ飛んだそいつを今度はタイロックが大槍でこちらへと打ち返す。


「なあああああぁぁぁぁ…………!?」


 少し位置がずれたので走って今度はボレーシュートでタイロックの方へと打ち返しさらに速度が加速する。

 それをまたタイロックがまた打ち返し、俺がまた返す。


「やあぁぁぁぁ…………めえぇぇぇぇ…………」


 俺とタイロックは徐々に距離を詰めながら、ボールとなった男でキャッチボールを続ける。

 いや、キャッチしてねぇからただのラリーだなこりゃ。

 右へ、左へ、何度も何度も打ち返され往復していく度に男の速度は際限なく加速していく。


 やがて男の悲鳴すらも聞こえなくなり、ただ打撃音だけが響く。

 そしてついに男はタイロックに打ち返されず、すり潰されたピューレになって地面にばら撒かれた。


「……アンタ、なにしたのよ」

「バリアは無敵かもしれねぇが、中にいるこいつに慣性が働いてるのが見えたからな。 だから左右への慣性による負荷をかけ続けたんだよ、あとオマケで回転もさせてな


 人間の肉体は超高速の慣性と回転に晒され続けたら死ぬ。

 バリアというチートに過信した己のアホさを恨むんだな。


「ニワトリが先かタマゴが先かの答えがこれだな」

「それ、絶対に意味が違うでしょ」

「いいんだよ、死ねばどっちも動物性たんぱく質になるんだからよ」

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