第53話:起死回生

 勇者のいた場所には聖剣の刀身だけが残され、パルマとアズーリが声をあげて泣く。

 一方で、ショウは無力感に打ちひしがれていた。

 戦うことしか能がないせいで、父親を助けられなかった。

 そして今、戦うべき時に戦うことができず、ただ死なせることしかできなかった。


 自身のチートによる全能感など今はなく、ただ自分の力のなさの歯がゆさをかみ締めていた。

 それを感じ取っているからこそ、キリエもタイロックも何も言わずに見ていることしかできなかった。


「―――それで、これからどうするの?」


 ただひとり、アルフだけが彼に声をかけられた。


「………アァ?」

「これからどうするのって聞いてるの。 残ってる信者も殺す? というかアルフはどうすればいいの?」


 あまりにも淡々に言うことで、ショウの意識はこちら側へと戻って来た。


「………めんどくせぇ、放置でいい。 テメェも好きにしろ」

「ふざけんじゃないわよ、アルフを使い潰すっていうから付いてきたのに、用済みになったら捨てるっていうの? 貴方って気軽に女捨てそうな顔してるものね! 責任取りなさいよ!」

「うざってぇなぁオメーはよォ!」


 ショウが迫るアルフの頭を押さえつけながらまるで以前のように振舞うショウの姿を見て、タイロックとキリエは小さく笑った。


 これでショウの旅も終わりかと思われていた。

 だがそれを許さないと知らせる為か、地面から微弱な振動が発せられていた。


「ちょっとなにこれ地震!?」

「いや、地震じゃねぇぞ。 どっちかってぇと何かが迫ってくる振動だ」


 かつて日本で育っていたことで地震について詳しいからこそ、この異常についていち早く把握できていた。


 地面に座り込むアルフを乱暴にキリエへと投げ、ショウは感覚を研ぎ澄ましながら大穴を覗き込む。

 それは果ての無い奈落の底から、マグマのように吹き出る黒い水と共にやってきた。


「おい、なんだコイツァ」


 それは少女のような姿をしていた。

 全身を隠すかのような長い黒髪に包まれていた。

 頭に捩れた一本角があった。

 背中に小さく黒い翼があった。


 小さな寝息を立てていた少女は、ゆっくりと起き上がり周囲を見渡すも、自分の置かれている状況が理解できないのかボーっとしている。


「おい、まさかとは思うがコイツが厄災の黒鳥ってやつか?」

「さぁ……アルフは知らないわ、信じてなかったし」


 少し前までのショウであれば躊躇なく殺す選択肢を入れるところであったが、やれることを終えた今はそんな気分でもなかった。

 そんなショウ達へ、パルマとアズールが涙声で助言する。


「その子はライラの一族。 異世界転生者に封印されてたの」

「昔、死者の蘇生を行う為に大勢の一族が犠牲になった。 その子は最後の生き残り」


 死者の蘇生という単語にショウが反応する。


「死者の蘇生だァ? 確か錬金術のチートで一時期流通してたが、原材料になる魔物を絶滅させちまったせいで無理になったんじゃねぇのかよ」

「ただのカバーストーリーよ、こう言っておけばみんな諦めるでしょうってね」

「この子の一族はどんなものでも蘇生させられる、それこそ魔王だってね」

「………代償はなんだ?」

「その子の命よ、ひとりにつきひとりを生き返らせられる」

「だから馬鹿に利用されないように、異世界転生者が封印してたの」


 ショウはその言葉を聞き、吊りあがりそうになる口端を抑えながら質問を続ける。


「そいつァそっちの勇者も蘇生できるってことか?」

「可能よ、やらないけど」

「メナスは頑張りすぎたわ、ゆっくり眠らせてあげないと」

「そうか、そうか………フッ……フフフフ、ハハハハハ……ハァーッハッハッハッハァ!」


 急にショウが狂ったかのように笑い出してしまう。

 その姿に、その場にいた全員が身震いを覚えてしまった。

 だがそんなことを気にすることはなく、ショウは暗い笑みを浮かべながら少女に近づき、乱暴にその角を掴んだ。


「つまり、こいつを"使え"ば親父殿が生き返るってことだよなァ」

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