第28話:王位継承者
城の玉座には再び静寂が支配している。
そしてその原因もまた前と同じくショウ王子であり、それに1人の少女も加わっていた。
「おら、俺に言ったことをもう一度ここにいる奴らに説明しやがれ」
いつもであればショウ王子が少女を足蹴にするのを見たのであれば家庭教師であるシールが窘めるものなのだが、あまりの急展開に言葉を失っていた。
そしてそれの代わりに少女が口を開く。
「ショウ王14世の首はここから南のクリフォト大陸に運ばれたわ。 理由は過去の転生者が倒すことができずに亡国ツァーカムに封印した災厄の黒鳥の復活。 封印はかつてセフィロト大陸の王達が施したもので、解除には彼らの首が必要だったから」
あまりにも衝撃的であり、突然の情報にその場に居るほとんどの者の口が塞がらない。
「その前に言うことあんだろうが女ァ!」
だがショウ王子はそんなこと毛ほどにも気にせず、少女をせっつく。
「リスタート教団のアルフ、元洗脳のチート持ちよ。 今はもう自分に掛かってた洗脳ごと解けてるわ。 教団の目的はチートを喰らう厄災の黒鳥を復活させてこの世界を転生者とチートがなかった頃に戻すこと」
「転生者の発明とチートがなかったらクソ不便だろ、どうする気なんだよ」
「さぁ? それでもいいんじゃない。 洗脳される前はアルフはそんなの気にしたことないし」
と、ここでシールが手を上げて会話に割り込んだ。
「失礼、先ほど洗脳がどうとか聞こえたのですが……」
「リスタート教団はチートの移植技術を持ってるの、それが刻印糸と呼ばれるもの。 チートを持っていた人間を使って編まれた糸でチートを移植しつつ、洗脳もできるわ」
「分かりやすい悪の組織だぜ」
いつもならば悪の組織と聞けばテンションが上がるショウ王子だが、今は辟易とした顔をしている。
「アルフの洗脳チートは【信心】、一度でもアルフをわずかにでも信じれば絶対に疑えないし信じ続けるようになる。……ま、そこの王子様には効かなかったけど」
「たりめぇだろ、テメェを信じる理由なんざ毛ほどもねぇよ」
ここでようやく周囲の人間も状況を受け入れ始める。
とはいえ、まだまだざわつき混乱している者の方が多かった。
「オルフもアルフを信じなかったら死ななかったのにね。 ほんと、なんでアルフなんかを信じたのかしら」
自嘲気味にアルフと名乗った少女が呟く。
「オルフゥ? それは誰ですかぁ?」
本来は王子の後ろでただ静かに待つだけのキリエだったが、場が混乱していることもあり、情報を引き出す為に質問をする。
「世界でたった1人の弟よ。 刻印糸のチートがアルフに移植されてるのか、洗脳できてるのかを確かめる為に、アルフの手でオルフを洗脳させて自殺させたけど」
キリエと、そして周囲の人間が押し黙りまた沈黙の時間がやってきた。
「……他に質問は? もうない? じゃあ、もうアルフは用無しの役立たずってことよね」
その問いに誰も答えず、了解を受け取ったアルフは王子に向き直った。
「じゃあころして」
あまりにも淡白な物言いで王子に頼んだ。
「八つ裂きでも、ギロチンでもなんでもいいわ。 だから早くころして?」
「はァ? なんで殺されたがってる奴をわざわざ殺さにゃなんねぇんだよ、自分で勝手に首でも吊って死ね」
「ハッ、アルフみたいな大罪人が楽に死んでいいわけないでしょ。 だからあの時言ったみたいに、苦しみ抜かせてからころして?」
「やなこった」
王子が面倒そうに追い払うように手を振る。
それで諦めるわけにはいかず、アルフは別の人間に目をつける。
「男のくせに度胸ないわね。 じゃあティファレト国の矛と護剣と称されてる騎士タイロックとキリエはどう? 王殺しの大罪人を誅する絶好の機会よ」
タイロックとキリエはお互いに顔を合わせたあと、答えた。
「我ら、命令聞く、王子だけ」
「王子が殺さないと選択されたのであれば、我々はそれに従うだけです」
「ハァ~……じゃあそこの無能の子ならいいでしょ。 父親の仇討ちくらいできるでしょ、ほら」
そしてアルフは今度はユーエルに目をつけ、そちらに向き直った。
しかし……。
「やだ!」
あまりにも早く、そして力強い否定の言葉が返ってきた。
アルフは周囲を見渡すも、誰も剣に手をかけていない、誰も殺そうとしない。
ただ距離を置かれるだけである。
「………ころしてよぉぉおおおおお! なんでころしてくれないのよぉぉおおおおお!!」
アルフは玉座の間において絶叫し、それで余計に周囲にいた者たちが離れていった。
そしてそれが彼女の悲痛な叫びを加速させる。
「全部覚えてる! 洗脳された時も、洗脳した時のことも! それで沢山の人が死んだことも! 命を使い潰させたことも! オルフも死んだ、守れなかった! だけど自分で死んで楽になんかなれない! せめて誰かに殺されないと! アルフにはもうそれしか価値が無い!」
精神的にも限界がきたのか、心の吐露が止まらず泣きじゃくり続ける。
それを見てもなお、王子の顔色は変わらないどころか―――。
「めんどくせぇなこの女」
「あのぉ、王子ぃ……それは分かっていても言わない方がぁ」
少し同情したのか、キリエがショウ王子にこっそり耳打ちする。
「ん? おう、別に性差別とかそういうつもりじゃねぇんだが、気をつけとくか」
ショウ王子も分かっているのか分かっていないのか曖昧な答えで返す。
そこで気まずそうに官僚のひとりが王子のもとへとやってきた。
「あの……このような時に大変申し訳ないのですが、ショウ王14世の葬儀についてご相談が」
「アァン? あー、そういや親父殿の弔いもしねぇといけねぇな」
ショウ王子はここに戻る際、首のないショウ王14世の遺体を持ち帰っており、城の地下で納棺されている。
今は彼の妻がその最期の姿を見納めているところだ。
「それとショウ様の戴冠式についても決めねばなりません。……失礼しました、ショウ王15世様」
「ハァ!?」
そこでようやくショウは自分が後継者だということを思い出した。
父を超えることもなく、心の準備もなく、あまりにも突然すぎる継承イベントであった。
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