第19話:スタンピード
終わった、終わってしまった。
あれだけ待っていたというのに、あんなに期待していたというのに、その全てが無に帰ってしまった。
「逃げやがったな、あのクソ共がぁぁあああああ!!」
俺はわざわざ悪党の根城を一つ一つプチプチと潰していたのは、そこから追われた奴らが集まり、最大戦力を以って俺と対峙させる為だった。
だというのに、放棄された砦に集まった奴らは主導権争いで勝手に同士討ちを始やがった。
祭りに乗り遅れるわけにはいかねぇと俺もそこに向かったが、到着した頃には戦える奴らは全員国外逃亡をキメやがった。
「これだから最近の盗賊ギルドの奴らは根性がねえって言われんだよ!」
「それ、言うの、王子だけ」
似たようなことはあっちの世界でもずっと言われてるが、それは置いておく。
「こうなったらこのまま追撃してやろうか」
「だめですよぅ、王子が他の国で勝手に暴れたらショウ王が―――」
「別に何も言わねぇだろ」
多分、笑って済ませるだろう。
ただし起きた面倒ごとはこっちに悟らせず勝手に全部自分で始末をつけて。
そう考えると勝手な真似はできねえ。
俺がやらかして俺がケリをつけてぇのに、親父殿は絶対に介入してくる。
あっちは貸し借りだとは思ってねぇが、俺にもちっぽけながら男の意地がある。
だからなんとかイベントを待っていたのだが、遠くにウチの騎士団連中が見えたのでそいつらの所に向かった。
「王子!? このようなところで何を」
「悪党共が暴れてるって聞いてわざわざやってきたのに、全員逃げやがったんだよ!」
「それはまた運が悪い……」
「おぉ、お前は俺の気持ちを分かってくれるのか!」
「いえ、その悪党のことです。 実はこの近辺のダンジョンから魔物のスタンピードが発生しているとの報せが来たのです。 恐らくそやつらは巻き込まれてしまうでしょうな」
「なんだよ、そんなことか」
ダンジョンというのは国にとって大きな一つの資源である。
過去に転生者が作ったものも多くあり、そこで採れる鉱物や魔物の肉皮等々を利用している。
中にはエロトラップダンジョンもるのだが、エロ目的なせいで利用できる資源がなく、ハズレというか産廃扱いになっている。
いい加減にしろよ転生者。
「ここで王子をそのまま戻ってもらってもしものことがあってはなりません。 スタンピードの解決まで、我らと行動を共にして頂けないでしょうか」
「いや、魔物くらいでもしももクソも……」
いや、これはチャンスだ!
見たとこ騎士団の戦力には新人がそれなりに混じってる。
少しでも実戦経験を積ませる為だろうが、そういった所から綻びってのは出るもんだ。
つまり、そこで俺が華麗に助けに入り魔物を一掃すれば俺の凄さってやつを分からせられるというワケだ。
「おう、いいぜ。 我が国が誇る騎士団の勇姿ってやつを見てやろうじゃねぇか、クハハハハ!」
そうして魔物の進路方向に陣地を構えてしばらくすると、大量の魔物が押し寄せてくるのが確認できた。
「桜歌部隊、呪文用意!」
騎士団長の合図と共に、呪文士達が前衛に出て本を開く。
「39ページ第5章詠唱開始!」
≪我らが御手に集いし悪食の炎よ、立ち塞がる怨敵に降り注ぎ給え!≫
呪文士達の手から黒炎の塊が出現し、前方の魔物の群れへと一斉に降り注いだ。
「あのぉ、呪文って本がなくても唱えられますよねぇ?」
荒野の花火大会を見ていると、キリエが珍しく質問してきた。
「呪文は詠唱する句・節・文によって効果を細かく調節できる。 逆に言やぁちょっと変えただけでガラっと別もんになっちまう。 だから軍隊じゃああいった呪文書にあらかじめ詠唱をまとめといて、状況に応じて決まった詠唱を唱えるってわけよ」
「へぇ~!」
「だから呪文士とやるときは本じゃなくて喉狙え。 無詠唱チート野郎がいてもそれで死ぬだろうがな」
「呪文士、首狙う、首寄越せ、これ、戦士の聖句」
過去の転生者共はほんとによぉ、ミーム汚染がひどすぎんだろ。
マジでいっぺん死んどけよ……と思ったがとっくにくたばってたな。
「ちなみにぃ、あの装備の露出にも何か意味がぁ?」
「作った奴の趣味」
過去の謳歌部隊がつけてる装備というのが、まぁ露出度高めの衣装なのだが、当然んの如く過去の転生者が量産した装備である。
何を考えてあんなもん量産したのか、この場にいたら問い詰めてやるところだ。
まぁ流石にモジモジしながら戦う呪文士達に同情するので、もっといい装備作れるチート持ちがいたら装備を一新してやろう。
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