第37話:チート能力+チート装備

 叫びながらそいつの顔面に右手を叩き込む。

 しかし、そいつはわずかに顔を逸らして避けてみせた。


「テメェ、今の見えてたのか?」

「野蛮な王子様だねぇ。 そんな技術も何も無いパンチなんか目を瞑ってても当たらないよ」

「なるほど、テメェの目が節穴だってのはよーく分かった」

「……なんの話だい?」


 今、俺はこいつの瞬発力と反応速度を見るためにわざと指を1本、2本と変化させつつ殴った。

 だがこいつはそれをただのパンチだと言い切った。

 つまり速度はあるが、視力はお察しというわけだ。


 その証拠に、俺が腰につけていた袋を奪ったところで気付かず、目の前で掲げてからようやく知ったくらいだ。


「どうした、速過ぎて見えなかったか?」

「まさかッ!?」


 刀の柄に手を掛けるが、俺が柄の頭を抑えたせいで抜けない。


「どうした、抜けよ。 飾りじゃねぇんだろ」

「このッ……!」


 そいつは後ろに飛びずさり、改めて刀を抜く。

 先ほどまでのヘラヘラした表情と違い真剣な顔をしているが、それが余計に滑稽に見える。


「くたばれボンボンがぁ!」


 速度に自信があるからこそ、遠間からの助走をつけた突きをくりだす。

 だが分かりやすく、そして遅い。


 半身をずらして躱し、無防備などてっぱらに膝を叩き込むと身体がくの字に曲がりながら空中に浮かび、そのまま足を掴んで地面に叩き付けた。


「ゴッ……ハァ!?」


 苦悶の声が聞こえる、まだ足りない。

 もう一度持ち上げ地面に叩き付ける、まだ足りない。

 また持ち上げてから、今度は地面にこすり付けるように何度も念入りに叩き付ける。

 そのせいで綺麗だった顔面が擦り切れっちまった。


 そこでようやく俺は手を離してやる。

 クソ野郎はまだ動けるようで、虫のように必死に這って逃げようとするところを頭を踏みつけて押さえる。


「ここにいる奴らは何の間違ったことしてないのにみすぼらしく死ぬんだろ? それに比べれば、お前がこうやって死ぬのは妥当な結末だろう?」


 そして俺は頭を潰そうと足に力を入れる。

 パン、という音が聞こえた瞬間にクソ野郎が消えた。


「アァン?」


 もう一度パン、という音がした。

 そしてそれと同時に俺が持っていた親父殿の首まで消えてしまった。


 音の鳴った方向に顔を向けると、そこにはいなかったはずの奴らがいた。

 俺と同じくらいの体格である男は静かに佇みながら俺を見ている。

 背後にいる紫髪の女は先ほどまでボロ雑巾になっていたクソ野郎にポーションを飲ませ回復させる。

 そして青髪の女が親父殿の首が入った袋を、元気になったクソ野郎に渡した。


「こっちはメナスがなんとかする、あなたはそれを持ってツァーカムまで逃げなさい」

「オレに逃げろだと!」


 クソ野郎は激昂するも、男が視線を向けただけで後ずさった。

 どうやら目の前にいる男はそれだけの強さを秘めているようだ。


「テメェ、逃げたら殺すぞ」


 クソ野郎に脅しを込めて距離を縮めようと足を踏み出した瞬間、悪寒を感じて咄嗟に回避体勢をとった。

 さっきまで俺の頭があった箇所に、不可視の刃が通り過ぎていた。

 速さだけならクソ野郎の方があったかもしれねぇが、こいつのはちょいと厄介だ。

 なにせあまりにも動作がコンパクトで静かなせいで"起こり"が掴めなかった。


 例えば殴るときに振りかぶるように、何かをしようとする前段階の行動がそれだ。

 それが掴めないということは攻撃の予測ができないということであり、一撃が致命傷になる戦いにおいて厄介なことこの上ない。


「アンタ、本気で戦いなさい!」


 ここでようやく女が口を出してきやがった。


「おい女ァ、こいつはなんだ!」

「種族は不明、性格も過去も不明。 知ってるのはメナスって名前と……30を超える刻印糸によるチートに、昔の転生者が作ったチート装備を持つ最強の男ってことよ!」

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